第606話 テントウムシ
ヘリから降ろされたのは、直径二メートルほどの真っ赤な半球体。素材は単結晶炭素繊維強化プラスチックで、銃弾ぐらいは余裕で防げるらしい。
半球体のガルウイングドアを開くと、内部にはリクライニングシートがあり、人が一人乗れるようになっていた。
「へえ! これにあたしが乗るの?」
そう言いながら、ミクは中に入り込みリクライニングシートに座る。
「座り心地はいいけど、これどうやって動くの? 車輪もキャタピラーもないけど……」
「今から、足を取り付けるんだ。ミク、ちょっと降りていてくれ」
「うん」
ミクが降りてから、僕と芽依ちゃんで半球体を持ち上げた。
そこへPちゃんが、装甲に覆われた機械の足を取り付けていく。
六本の足を取り付ける作業は、五分ほどで終わった。
完成した姿は、巨大なテントウムシ。
実際、これが使われていた二十一世紀半ば頃は『テントウムシ』の愛称で呼ばれていたらしい。だから、僕らもこれを『テントウムシ』と呼ぶことにした。
「わあ! あたしこれ知っている。
ミクの事だから、アニメで知った知識だろうな。
「いや。多脚であることは確かだが、戦車じゃない」
「戦車じゃないの?」
「これは、多脚戦闘ロボットなんだ」
「ロボット? 戦車とどう違うの?」
「戦車は、中に人間が搭乗して機器を操作するわけだが、これは
「だってこれ、人が乗れるじゃない?」
「ここに乗るのは操縦者ではなく、言ってみればお客様だよ」
「お客様?」
「通常、このロボットには機銃とかロケット砲とかレーザーとか火器ユニットを装備しているが、今回はそれを外して
トリセツによるとこの救助ユニット、突然の火山噴火や大規模な火災現場などに入っていき、逃げ遅れた人を内部に収納して安全圏まで離脱する事を目的に作られたそうだ。
また、戦場で
今回、ミクを地下施設に連れて行くにはうってつけの装備だ。
ん?
テントウムシを挟んだ反対側で、アーニャがウインクをしていた。
合図か。
「ミク。もう一度乗ってごらん」
「うん」
ミクはテントウムシに乗り込み、リクライニングシートに座った。
「コマンドは日本語に設定してある。ミクの声は覚えさせてあるから『閉じて』『開けて』と言えば、ガルウイングが開閉する。やってごらん」
「うん。閉じて」
ガルウイングが閉じる。
「開けて」
しばらくの間、ミクは面白がってガルウイングを開けたり閉じたりを繰り返していた。
「ところで、これの操縦はどうやってやるの? あたし、自転車しか運転した事ないよ」
「さっきも言ったけど、これはロボットだ。操縦は人工知能がやってくれるから、ミクは行きたいところを口頭で指示すればいい。ただ、今回はPちゃんが遠隔操作する事になっているから、ミクは何もしなくていいよ。式神を操る事に専念していてくれ」
「うん、分かった」
「ミクには、これに乗って地下施設へ行ってもらう。この中で式神を操っていれば、レムも手を出せないだろう」
そこへアーニャが口を挟んできた。
「本当に、こんなので大丈夫なの?」
「アーニャさん。何か心配でも?」
「このテントウムシとかいうロボットで、ミクちゃんを守り切れるの? 第六層ではカルル・エステスが待ちかまえているのよ。相手が人間の兵士ならともかく、カルル・エステスなら何か機動兵器を出してくるのじゃないかしら? イワンとまではいかないまでも、また変態触手を使うようなメカでも出してきたら、テントウムシごと拉致されちゃうわよ」
その心配はもっともだが……
「大丈夫。ミクを第六層に入れるのは、僕らがカルル・エステスの部隊を制圧してからです。あいつがどんな変態メカを出してきても、僕らは負けません」
今頃、カルルの奴、クシャミしていそうだな。
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