第586話 仮設基地

 南ベイス島へナーモ族たちを送り届けたヘリが戻ってきた時には、プレハブ小屋の仮設基地ができあがっていた。


 基地の周囲は機銃やレーザーで取り囲み、その制御コントロールはすべてプレハブ小屋の中からできるようになっている。


「なかなか、すてきなおうちね」


 ヘリから降りてきたアーニャが、プレハブ小屋の壁を撫でた。


「素材はプラスチックなの?」

「ええ。帝国軍がここまで攻め登ってきた時に、エラの高周波磁場で防御できるようにするため、金属は一切使っていません」

「機銃の制御や、通信機はどうするの? エラが能力を使ったら、それらの装置は壊れてしまうけど……」

「それは大丈夫です」


 僕は小屋の中にアーニャを案内した。


 小屋の中には、扉に『制御室コントロールルーム』と書いた札の貼ってあるさらに小さな小屋がある。


「この制御室コントロールルームは、常温超伝導物質でおおってあります。通信機や機銃、レーザー等の制御装置は、すべてこの中にあるので高周波磁場の影響は受けません。他に必要な電子機器や金属製品等は、やはり超伝導物質で覆ったコンテナの中に入れてあります」


 制御室コントロールルームの扉を開くと、中はネットカフェの個室のようだ。

 

 リクライニングシートとコンピューターがあるだけ。


「狭くて申しあけありませんが、アーニャさんはここを使って下さい」

「大丈夫よ。宇宙船とか潜水艦とか、狭いところは慣れているから。でも、最初の予定ではエラの能力を利用した防御態勢は想定していなかったはずだけど、この予定変更はなぜ?」

「当初は、帝国軍がレーダードーム跡を放棄していると想定していたので、敵に気づかれないまま山頂を占領できると考えていました。しかし、出撃前に衛星画像によって山頂付近に熱原体があるのを確認していたのです」

「じゃあ、山頂に敵兵がいることは、ドローンが見つける前から分かっていたの?」

「ええ。その時点ではまだ可能性に過ぎなかったのですが、もしそこに敵兵がいるなら防御態勢を早期に強化する必要ありと判断したのです。だけど《海龍》でその事を話すとミーチャに聞かれてレムに知られてしまう危険があります。だからアーニャさんへの説明は現地で行うことにして、僕とPちゃんだけで装備を変更しました」

「賢明な処置だと思うわ。でも、レムの目的はミクちゃんの拉致。拉致目的でここまで攻め込む事があったとしても、ミクちゃんを殺しかねない強力な火器をここで使用するかしら?」

「あくまでも、念のためです。以前に成瀬真須美が『奴も帝国軍を完全にコントロールできるわけじゃない』と言っていました。恐らく、レムがコントロールできているのは軍の上層部だけで、士官……もしくは佐官当たりまではコントロール下に置いていないと推測できます。その当たりの者が独自の判断でやる事までは、どうにもならないという事だと思うのです」

「つまり、功をあせるあまり、勝手な判断でここへ攻め込む者もいるという事ね」

「そういう事です。それとですね。エラの能力を使う事によって、もう一つ思いついた事があるのですよ。まあ、上手くいけばの話ですが……」


 僕の話を聞いた後、アーニャは制御室コントロールルームのシートに座りコンピューターを起動させた。


「ここで火器の制御だけでなく、周囲に設置したセンサー類の情報も集まってきます」

「ここにいれば、私一人で防衛システムを操作できるのね。でも、交代要員も欲しいわね」

「次のヘリで、レイホーにも来てもらいます。それまではアーニャさんに基地の防衛をお願いします」

「分かったわ」


 アーニャは制御室コントロールルームの扉を閉じた。


 僕はミールの方を振り向く。その傍らには、捕虜から作った分身体が二人残っている。


「ミール。捕虜から必要な事は聞き出したかい?」

「ええ。もうこの二人は消しますか?」

「ああ。必要なら、戦場でまた捕虜を捕まえればいいさ」


 ミールは捕虜の分身体を消して、十二体の分身体を作った。


 キラも分身体を一体作り、ミクは式神オボロを召還した。


「お兄ちゃん。アクロじゃなくてオボロでいいの?」

「ああ。最初の戦闘は地下施設入り口の占領だ。空を飛べるオボロの方がいい」


 そして、僕たちは基地の防衛をアーニャとエラに任せて、地下施設入り口へと向かって山の斜面を駆け下りて行った。

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