第584話 ヘリポート

「隊長」


 橋本あきらは、地面に倒れている二人の兵士を指さした。


「二名捕らえました。どうします? 口を割らせるのは一名で十分なので、一人は殺しますか?」


 彼女も可愛い顔して、物騒な事を平然と言うなあ……


「いや、せっかくだから、二人とも生かしておこう」


 つーか、戦闘不能になった者まで殺したらあかんやろ。


「隊長なら、そう言うと思いました」


 まあ、それは良いとして……


 僕は工事現場の方を向いた。


 レーダードームの残骸は、すっかり撤去されている。


 これから新しいレーダーを設置するところだったのだろうけど、まだその作業は始まっていない。


 それはそれで、僕たちにとっては都合のいい状況と言えた。


 元々、このレーダードームの跡地に、ヘリを降ろして橋頭堡きょうとうほとする予定だったのだから。


 山頂付近は険しい地形をしているが、レーダードームのあるところだけは、平らに慣らしてコンクリートと石垣で固めてある。


 ヘリポートにするのにちょうどよい場所だ。


 だから、ロボットスーツ隊が先行して、着陸の邪魔になりそうな残骸を撤去してから、ヘリを降ろす予定だったので手間が省けたと言える。


 問題は、その作業をやっていたナーモ族奴隷たち。


 全員作業の手を止め、怯えた視線を僕たちに向けていた。


 無理もないな。


 彼らにしてみれば、突然やってきた僕らが何者だか分からない。


 ただ、監督していた兵士たちが殺害されて、次は自分たちの番だと怯えているようだ。


「ナーモ族の諸君。君たちに危害を加えるつもりはない。だから、安心してくれ」


 とは言ってみたが、安心する様子はない。


 一人のナーモ族が、おずおずと僕の前に進み出る。


「わしらは、これからどうなるのですか?」

「君たちには、何もしない。もう帰っていいよ」

「でも、このまま基地へ帰ったら、わしらムチで叩かれるのですが……」


 え? そうなの……


 かといって、大陸へ移送してそこで自由の身にしても、どうやって食べていけばいいか分からないと言うし……


 結局、彼らは、ヘリで南ベイス島の村へ運んで、しばらくそこで保護することになった。


 程なくして、ヘリが降りてくる。


 ヘリから降りてきたミールに、捕虜の分身体を作ってもらい、情報を聞き出してみた。


 それによると、帝国軍の主力はほとんど海岸線の方に集結しているらしい。

 

 残りは地下施設の中にいるそうだ。


 そして、カルル・エステスも地下施設にいるという。


 しかし、地下にいるのなら、プシトロンパルスは届かないはず。レムはどうやって、カルルをコントロールしているのだ?


 その事を聞いてみたのだが、兵士達には「プシトロンパルス」とか「脳間通信」と言われても、なんの事だか分からないようだ。


 当然だな。末端の兵士がそんな事を知るはずがない。


 まあ、どうせ中継装置のようなものでもあるのだろう。


 それより、この山頂から地下施設に向かう途中に、戦力が配備されているか否かの方が重要だ。


 その事を聞いてみると……


「俺の知る限りでは、地下施設入り口から上には、兵士はいない」

「では、君たちの任務は工事の監督だけか?」

「そうだ」

「ここに、我々が攻めてくるという事は予想していなかったのか?」

「予想はしていたが、我々の任務は瓦礫の撤去だけだ。それが済んだら、直ちに撤収する事になっていた」

「レーダーの設置は?」

「後からやってくる技師が、行うことになっている」


 という事は、技師と一緒に護衛の兵士達も来るのか?


 やっかいだな。


「技師って? まさか!」


 ん? 僕は芽依ちゃんの方を振り向いた。


「芽依ちゃん。どうかしたの?」

「確か、あの人も電子工学の学位を持って、レーダーに詳しかったかと……」


 あの人?


「これは驚きました」


 その声は、突然頭上から聞こえた。

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