第564話 後回しにしている問題が増えていくような……

 部屋の扉を閉めて、ミールのいる方を振り向いた。


「それで、話って?」

「実は、カイトさんとメイさんが《水龍》に行っている間に、《海龍》内で妙な事が起きていたのですよ」


 妙な事?


「アーニャさんがシャワーを浴びている時に、誰かがのぞいていたのです」


 なに?


「他にも、カミラさんがお尻をでられたり、マー艦長の着替えがのぞかれたり。でも、誰がやったか分からないのです。被害にった人は、逃げていく人影をチラっと見ただけで……」


 まるでジジイがまだ艦内にいるみたいだな。


 いやいや! いるはずがない! あいつはアーテミスに置き去りにしたのだ。


「気のせいじゃないのか? 僕もミーチャも《水龍》にいたわけだし……《海龍》に男は一人もいなかったんだぞ」

「カイトさん。いたら、やるのですか?」

「いや、やらないけど」

「ですよね。あたしが鍵を開けているのに、全然夜這よばいいに来てくれないし……」


 なんか、夜這いに行かないのが、悪いように聞こえるのですけど……


「ミーチャも性に目覚める歳かもしれないけど、そんな事はやらないと思います。あの子、女を怖がっているみたいだし……まあ、それはエラが悪いのですけど」

「まさか!? 艦内に同性愛者がいるのか?」


 いや、別に同性愛者を差別する気はないが、同性愛者でも異性愛者でも、セクハラは良くないぞ。


「それはないと思います。今のところ被害に遭っていないのは、あたしとPちゃん、そしてミクちゃん、エラ。お人形さんであるPちゃんが、そんな事をするはずがありません。あたしはもちろん違います」


 ミールが同性愛のはずがないな。同性愛なら、僕とあんな事やこんな事をするはずないし……


「エラは、逆レイプだってやりかねないぐらい男好きです。ミクちゃんだって……」


 そこでミールの言葉に詰まった。


「そう言えば、ミクちゃんって最初会った時、あたしにすり寄ってきましたね?」


 まさか?


「ミクが同性愛? いやいやないだろう。それは……ミールには理解しがたいかもしれないが、地球人には猫耳が異常に好きな人がいるんだ」


 まあ、僕もそうだが……


「そうなのですか?」

「それにミクは、電脳空間サイバースペース白龍パイロン君に恋をしていたし、こっちでもミーチャに……」


 いや待てよ!?


「なあ。ミールの姉弟子さんって、同性愛だったよな?」

「ええ」

「美少年を、女装させて喜ぶような趣味はあったか?」

「いえ。そんな趣味はありません。むしろ、美少年だろうと、男が近づくのを異常にいやがっていました」

「という事はミクも、同性愛ではないな」

「あの。もう一つ心配なのは、あたしの分身体が暴走しているのではないかと」

「暴走? 以前にキラが暴走させていたが、あんな感じかい?」


 ミールが首を横にふった。


「たまにあるのですけど、分身体が術者のコントロールを離れて勝手に動き出してしまう事が。そうなると、術者本人にも分からなくなるのです。そのような野良分身体はたいていすぐに消えてしまうのですが、中には定着してモンスター化するものもあります」

「という事は、ミールのコントロールを離れた分身体が、《海龍》内を彷徨うろついていると?」

「はい。その可能性があります」

「危険なのか?」

「場合によっては、人を襲って生命エネルギーを吸い取ることも」


 それは怖い。


「ですから、着替えやシャワーをのぞいていたのは、生命エネルギーを吸い取ろうとして狙っていたのかも……」

「退治できないのか?」

憑代よりしろを破壊すれば、消えるのですが……まあ、モンスター化するには、かなりの時間がかかるので、今のところは、人に襲いかかるほどの力はないと思います」

「そうか。では、今すぐ対策する必要はないな」

「ええ。ただ、ベイス島の攻略が終わったら、忘れずに分身体を捕まえないと、時間が経つほどやっかいになりますので」

「分かった。作戦が終わったら対策を考えよう」


 なんか、後回しにしている問題が増えているような気がするのだが……


 まあ、今は考えないでおこう。

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