第560話 夫婦?

 レムのオリジナル体と、僕と芽依ちゃんのオリジナル体が過去に出会っていた?


 いや、待て! その前にこいつ、サラっと、とんでもないことを言わなかったか?


 僕と芽依ちゃんが夫婦?


「夫婦って、どういう事ですか?」


 芽依ちゃんが顔を赤らめて質問する。


「そのままの意味です。オリジナル体のあなたたちは、結婚していたのですよ」

「ええええええええ! そんな! ちょっと! 嬉しい! いやいや!」


 あかん。芽依ちゃん、すっかり混乱している。


「芽依ちゃん。落ち着いて!」

「は! すみません。その……つい、取り乱して……」


 芽依ちゃんはキッ! とレムの方を睨む。


「そんな事言って、私を混乱させようという作戦ですね」

「いや……作戦も何も、事実ですし……」

「では、私たちは、どんな夫婦でした?」

「そりゃあ、仲睦なかむつまじい夫婦でしたよ」

「本当に!?」

「ええ。いわゆる、おしどり夫婦でしたね」

「でも、話だけでは信じられません。私の得意料理は分かりますか?」

「オムライスです」

「なぜ……それを……」


 そう言えば、芽依ちゃんが料理をしているところを見たことないけど……


「芽依ちゃん。当たっているの?」


 芽依ちゃんは、コクッと頷く。


「ただし、私はこの惑星に降りてから、ほとんど料理をしていません」


 だとすると本当なのか? 地球に残った芽依ちゃんのオリジナル体は、僕と結婚していたというのか?


 芽衣ちゃんは、その後も続けていくつか質問した。質問の内容は、地球で芽衣ちゃんに会っていなければ分からない事だが、レムはすべて正解したのだ。


「いいでしょう。それが事実であるかは、後で《イサナ》のデータベースで確認します。それより、私たちは顔を見せましたよ。約束通り、二つ目の理由を話して下さい」

「良いでしょう。二つ目の理由は、矢納は、知ってはならない秘密を知ってしまったからですよ」


 知ってはならない秘密? やはり、レムの犠牲者を解放する方法か?


「もちろん、知ってはならない秘密ですから、ここで内容まで話せませんが……」

「分かった。その内容については聞かないが、これだけは教えてほしい。あんたは矢納さんと取引をしていたようだが、矢納さんを嫌っていたのなら、どうして取引に応じた?」

「こちらも、背に腹は変えられない状況でしてね。私のシステムを維持しようにも、地球から持ち込んだカートリッジは枯渇寸前。この惑星の資源を利用しようにも、マトリョーシカ号のコンピューター内にあった技術者のデータが消えてしまうなんてトラブルもあって……」


 トラブルだと思っていたのか? ジジイの仕業だとは、気がついていなかったのだな。


「そんな時に《イサナ》のクルーが、無線で取引を持ちかけて来たのですよ。『《イサナ》を、裏切る用意がある。自分を仲間に加えてくれるのなら、カートリッジを都合してやってもよい』と。その時点で、それが矢納だと分からなかったし、罠かもしれないとは思いましたが、その話に乗らないと私はシステムを維持できなくなる。一か八かその話に乗ってしまったわけです。その結果、矢納にはいろいろとこっちの情報を知られてしまって」

「矢納さんを、接続しようとはしなかったのか?」

「あんなウザい人を接続するなんて嫌ですよ」


 接続しない理由がウザいからって……


「まあ、矢納との取引のおかげでカートリッジは確保できたし、リトル東京の技術者を何人か接続して確保できたのは確かです。ですが、そうなったらあの男は用済みです。だから、始末しようかと思っていたのですがね」


 それはそれでヒドい話だが……

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