第506話 プシトロン1

「ああ、よく寝た」


 そう言って起きあがった僕の姿を見て、ミールは少し驚いたような顔をした。


「カイトさん。大丈夫なのですか?」

「ん? なにが」

「なにがって……さっきお酒で酔い潰れてから、一時間しか経っていませんが」


 ん? 一時間しか経っていないのか?


 さっきジジイが酔い潰れた後、僕も限界が来て倒れてしまったが……


 時計を見ると、確かに一時間しか経っていない。


 ずいぶん早く回復したな。


 そうか!


「これのおかげかな」


 僕はポケットから薬袋を出した。


「それは、なんですか?」

「出かける前に、カミラさんからもらった肝臓強化薬」

「その薬……この前、利かなかったのでは?」

「この前は、調合比率を間違えたらしい。今回は完璧なはずだから、試しに使ってほしいと言われてね」

「そうでしたか。まあ、回復が早くてよかったです」

「それでミール。爺さんの分身体は?」

「隣の部屋に待機しています。今は、Pちゃんがいろいろと聞き出していますが」


 隣室へ行くと、床の上にジジイが胡座をかいて座っていた。


 もちろん、これは本物ではなく分身体。


 部屋の隅では、本物のジジイが高いびきをかいて寝ている。


「ご主人様」


 分身体の前にいたミニPちゃんが、こっちを振り向く。


「いろいろと、興味深い事が聞き出せました」

「どんな事?」

「博士のオリジナル体は、脳間通信機能を媒介する素粒子を発見していたのです」

「それはすごい」

「ところが、学会で発表した後に再現実験がうまく行かず、虚偽発表していたと疑われるようになり、博士は学会を追われたのです」

「学会を追われたのか。ひょっとしてその後、学会への復讐を誓ったとか……」

「いえ、そのような事実はありませんが」

「なんだ、がっかり」

「ご主人様。何を期待していたのですか?」

「いや別に……」


 学会に復讐を誓うマッドサイエンティストって、なんか男のロマンがあるなあ……

なんて、女の子には分からないだろうな。


 しかし、それがあのエロジジイでは幻滅だが……

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