第492話 考えすぎではなかった

 ミールが分身体とのコンタクトを再開できたのは、それから十分ほど後の事だった。


「あたしの分身体、ドローンに縛り付けられていました」


 誰がそんな事を? いや、そんな事できるのはPちゃんしかいないが、Pちゃんがなぜそんな事を?


 ミールとケンカになったのだろうか?


「Pちゃんに事情を聞いたのですが、地下施設に入ってから、あたしが何も喋らなくなったそうです。Pちゃんから話かけてきてもまったく返事がなく、そのうちあたしはドローンから落ちてしまったそうです」

「落ちたって? 怪我はなかったかい?」

「分身体だから、その心配はありませんよ」


 そうでした。


「ただ、あたしの分身体は落ちたまま、まったく動こうとしないので、Pちゃんはあたしをドローンに縛り付けて戻ってきたのです」


 だから、縛ったのか。向こうでケンカになったわけじゃないのだな。


 しかし、分身体が動かなくなったという事は……


「分身体のコントロールを遮る何かが、そこにあるという事かな?」

「あたしもそう思います」


 となると、ミクが《海龍》にいながら式神を地下施設に送り込む事は不可能という事か。


「カイトさん。困った事になりましたね」

「ああ。だけど、これが分かっただけでも収穫だよ。何も知らないまま突っ込んでいたら……」


 本当に、これは収穫なのだろうか?


 敵の目的がミクの拉致であるとしたら、ミクが《海龍》から出てこざるを得ない状況を作る必要がある。


 もし、地下施設の中にエラがいて、ミクしか対応できない事態になって、ミク本人が地下に入って式神をコントロールしなければならなくなったら、まさに敵の思うつぼ……


 まさか?


「ミール。Pちゃんに伝えてくれ。ドローンを草むらに隠すようにと」

「はーい」

「ドローンを隠したら、ミールの分身体だけ降りて、帝国兵の前を見えるように横切らせてくれ」

「そんな事をしたら……」

「帝国兵が捕まえにくるか、攻撃をしてくるだろうね。その際は分身体を消してくれ。Pちゃんには分身体の消滅を確認したら、こっちへ戻ってくるように伝えてほしい」

「分かりました。でも、カイトさん。なぜ、そんな事を」

「帝国兵の反応を見てみたいのだよ」

「反応?」

「普通なら、ミールの分身体を見つけたら捕まえるか、あるいは発砲してくるだろう。だが、もしそれをしないで見て見ぬふりをしていたら……」

「見て見ぬふり? なぜ、帝国兵がそんな事を?」

「僕の考えすぎかもしれないのだけどね……」


 考えすぎではなかった。

 

 僕の予想通り、帝国兵はミールの分身体を見ていながら何もしなかったのだ。


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