第491話  復活のカルル

 蛇型ドローンは、何事もなく砂州さすを渡りきった。


 しかし、妙だ? 帝国軍は偵察ドローンを飛ばし、レーダーやソナーを常時稼働させているのに、砂州には赤外線センサーの一つもないなんて……


 考え過ぎかな?


 パソコン画面には、蛇型ドローンから送られてくる映像が映っていた。


 日が暮れて暗くなった湾内で、帝国艦隊の各艦がかがり火をともしている光景が表示されている。それに混じって灯っているLEDらしき明かりは《アクラ》のものだろう。

 

 海岸の方にも明かりが見える。帝国軍の駐屯地のようだな。


 画面の右下に視線を移すと、「99%」という表示がある。次の瞬間、それが「100%」に変わった。


『ご主人様。蛇型ドローン、バッテリーチャージ終了しました』


 姿は見えないが、パソコンのスピーカーからPちゃんの声が流れた。


『これより、ケーブルを切り離します。二時間後に戻る予定ですが、四時間経っても戻らないときはケーブルを回収して下さい』


 その直後、画面は真っ白になる。ケーブルを切断したのだ。


 僕は右を振り向いた。


 そこでは、ミールが両目を閉じ、クッションの上で結跏趺坐けっかふざしている。


「ミール。様子はどうだい?」

「今のところ何も問題はありません。ドローンは順調に進んでいます」


 そう言ってミールは目を開いた。


「ドローンが地下施設に到着するまで、一時間はありますね。それまで、分身体は自立モードにしておきます」

「そうか」


 力は温存しておいた方がいいな。


「今のうちに、さっきのお魚をお料理しちゃいましょう」


 吸血虫を餌にして釣った魚五匹が塩焼きになった頃、ミールは分身体とのコンタクトを再開した。


「地下施設の入り口が見えてきました」

「どんな様子だ?」

「十人ほどの帝国兵が警備しています。全員銃を持っていますが、Pちゃんが言うにはカラシニコフという銃だそうです」


 AK-47か。


「地下施設に入る前に、周囲の状況を探れるかい? 防空陣地がどうなっているか知りたい」

「はい。やって見ます」


 しばらくの間、ミールは無言でいた。


 五分ほど経過して口を開く。


「防空陣地を見つけました。Pちゃんが言うには、口径三十ミリの対空機関砲という武器があります」


 三十ミリ!? 九九式の装甲は耐えられるだろうか?


 それからしばらく、ミールの口述をメモしていき、地下施設入り口の防御態勢はだいたい把握できた。


「ミール。防空陣地はもういいよ。そろそろ地下施設に向かうよう、Pちゃんに伝えてくれ」

「はーい……カイトさん。防空陣地の脇で食事中の兵士たちがいるのですが、そこに興味深い人物がいました」


 興味深い人物?


「誰だい?」

「カルル・エステスです」


 なに!? カルルがここに来ているというのか?


 あいつ、怪我は治ったのかな?


「よし。先にカルルの様子を見てくれ」

「はーい」

「カルルが怪我をしている様子はないかい?」

「ピンピンしていますね。今も食事の合間に、女性兵士を口説いています」

「どうせフられるのに」

「いえ。いい雰囲気のようです」

「そうなのか。まあ、それはめでたいな」

「ああ! カイトさん、大変です」

「どうした!? ミール」

「女性兵士に、カルルがキスしています」

「そ……そうか。それはよかった」

「あ! ひっぱたかれました。フられたようです」

「そうか。それは可哀想に」

「ああ。別の女性に……」

「もう、別の女を口説き始めたか? 懲りない奴」

「いえ。今度は女性の方からカルルに言い寄ってきました。どうやら、カルルがフられるのを待って声をかけたようです。でも、カルルは引いています。なんか怯えているようです」


 怯えている? 


「あ! 女の顔が見えました。これはカルルが怯えるはずです」

「誰だった?」

「エラです」

「なに!」

「ナンバー2かナンバー3のどちらかでしょうね」

「しかし、カルルってエラの好みか?」

「さあ?」

「あの……」


 まあ、艦隊に戻ったら、本人に聞いてみるか。


「あのお……」

「あ! カルルが逃げ出しました」


 そりゃあ逃げるだろう。


「あのですね……」

「エラに捕まりました。電撃されています。ああ! 気絶したカルルにキスしています」


 気の毒に……敵ながら同情する。


「ご主人様! ミールさん!」

「あれ! Pちゃんどうしたの?」

「どうしたじゃありません。他人の恋路を覗き見している場合ですか。さっさと地下施設に入りましょう」


 そうでした。


 ほどなくして、ドローンは地下施設の入り口まできた。


 人目をかいくぐり内部に入っていく。


「ミール。地下施設の扉はどうなっている?」

「開けっ放しになっています」


 レイラ・ソコロフたちが地下施設を出た時、むりやりこじ開けた扉は閉める事ができなくなったと言っていたが、帝国軍は新たに扉を付けたりはしなかったようだ。


「しかし、扉が閉まらないのでは雨水が入ってこないか?」

「一応浸水対策なのか、入り口は登りスロープになっています」


 そのぐらいの対策はしてあったか。


「スロープを登り切りました。これより内部に入ります」


 しばらくして、突然ミールが目を開いた。


「カイトさん。何も見えなくなりました」

「え? 見えない」


 ミールの眼前で手を振ってみた。


「あ! そういう意味じゃなくて……あたしの目は見えます。分身体の見ていた物が見えなくなりました。音はなんとか聞こえているのですが……あ! 音も聞こえなくなりました。分身体とのコンタクトが完全に途絶しています」


 なんだって!?

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