第416話 寿限無
マオ川の上で飛行船ドローンが一機爆発した。
フーファイターのレーザーを食らったのだ。
これで落とされた飛行船ドローンは三機。
その様子を、残された二機の飛行船ドローンのカメラを通して僕らは見ていた。
三機の飛行船ドローンを落とした後、フーファイターはそれ以上攻撃してはこない。
残りの二機などいつでも落とせるのに……
ここまでは予想通り。
矢納課長が残りの二機を落とさないのは、飛行船ドローンの逃げる先にある物を見つけるため。
程なくして、それを見つけたようだ。
通信機のスピーカーから矢納課長の馬鹿笑いが響きわたる。
『あひゃひゃひゃひゃ! 見つけたぜ! 北村』
しかし、リアルで『あひゃひゃひゃ』なんて笑い声を上げる人がいるとは思わなかったな。
『尻隠して頭隠さずとは、このことだぜ』
え?
僕はマイクを取った。
「あの矢納さん。それ逆では?」
『え?』
矢納課長はしばらく考え込んだ。
『ああ! 『頭隠して尻隠さず』だったか……んな事どうだっていい! とうとう見つけたぜ。北村』
「どうやって? フーファイターに潜水艦を探知する能力は無いはずですが」
『確かにな。だが、貴様はドローンをコントロールするために、水面にフローティング・アンテナを上げていただろう』
そうだけど、ここは意外そうな声で……
「え?」
『フローティング・アンテナの下に、おまえの潜水艦はいるはずだ』
「しまったあ!」
と、驚いたふり……この演技に騙されてくれるかな? いや、僕だったらこの状況でフローティング・アンテナなんかが水上に出ているのを見つけたら絶対変だと思うけど……
『自分のバカさ加減に気が付いたか』
どうやら、変だとは思わなかったようだ。
『さあ、今から引導を渡してやるが言い残す事があるなら言ってみな。聞いてやるぜ』
「じゃあ、殺さないでください」
『それは聞けんな』
「しょうがないな。じゃあ僕の墓には酒を供えて下さい。団子だったら化けて出ますよ」
『いいだろう』
「それと戒名もつけて下さい」
『戒名? 面倒だな』
「ああ、大丈夫です。戒名はすでに考えてあるので、メモに取って下さい」
『いいだろう。メモの用意はした。戒名を言ってみろ』
「では言います。
『てめー! おちょくってんのか!?』
「そうですけど」
僕があっさりと肯定したので、リアクションに困ったのか矢納課長はしばし黙り込んだ。
このままでは話が続かないな。もうちっとおちょくってやろう。
「どうせなら、最後まで言わせてくださいよ。せっかく寿限無全文覚えたのに……」
『やかましい! そうやって時間稼ぎをして何かを企んでいるようだが、そうはいかん! 今すぐ殺してやる』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます