第408話 予想外な動き1

「カイトさん! 起きてください! 緊急事態です」


 ミーチャの声に起こされたのは、カルカ時間で午前五時の事。ロータスを出航してまだ半日も経っていないのに緊急事態って何があったのだ?


 帝国艦隊に追いつくのは、まだ先のはずだが……


 ちなみに普段僕を起こしたりするのはPちゃんの役目だが、昨夜からPちゃんは定期メンテナンスに入って休止中だ。代わりにミーチャが起こしにきたのだろう。


「ミーチャ。何があった?」


 寝ぼけまなこをこすりながらミーチャにたずねる。


「《アクラ》に予想外の動きが……」

「予想外?」


 昔、ガラケーのCMにそんなのがあったな……いやいや、呑気のんきに構えている場合じゃない。


 予想外の動きという事は《アクラ》がこっちの目的を察知して帝国艦隊を置き去りにして逃げ出したか?


 いや、それは予想される最悪の事態であって、予想外ではない。予想外というと、ガラケーが変形するような……まさか! 《アクロ》が巨大ロボットにでも変形したのか?


 手早く身支度を整え、通路に出るとミールと出くわした。


「カイトさん。おはようございます」

「おはようミール」

「緊急事態って、何があったのでしょう?」

「分からない。僕も起きたばかりだから……」


 あ! こういう時は、インターホンで発令所に問い合わせればよかったのだな。まあ、いいか。歩いても数十秒だし……


 発令所に入ると、マー 美鈴メイリン、アーニャ・マレンコフ、それにミクとキラが待っていた。


 通信機のディスプレイには《水龍》にいるレイホーの姿が映っている。


「おはよう。緊急事態って、何があったのです? 《アクラ》に逃げられたのですか?」


 アーニャがこっちを振り返る。


「それが逆なのよ」

「逆?」

「《イサナ》から送られてきた映像によると、帝国艦隊だけを先行させて《アクラ》は反転してこっちへ戻ってくるのよ」

「なんだって?」


 確かに予想外だ。僕らにとって最悪なのは《アクラ》に逃げられる事だが、逃げるどころか向かってくる?


 戦力から見ても《アクラ》に勝ち目はないはず。


 いや、僕たちも《アクラ》の戦力を完全に把握しているわけではない。何か、予想外の戦力を持っているのか?


「それで《アクラ》の速度は?」

「五十ノットよ」


 五十ノット!? こりゃかなり早い時間に遭遇するな。


「戦闘可能な距離に入る予想時間は?」

「午後三時」


 ちなみにここで言う戦闘可能な距離とは、電磁砲レールキャノンや魚雷の有効射程距離の事ではなく、戦闘用ドローンの戦闘行動半径 (軍用機が離陸後、戦闘を終えて基地へ帰還することが期待できる距離。一般には航続距離の三分一程度とされている)のこと……ちなみに九九式ロボットスーツの戦闘行動半径はドローンよりもはるかに長い。


 時計に目をやった。約十時間後か……


「やだな。オヤツの時間がなくなっちゃうよ」


 ミク。オヤツなんか気にしている場合じゃない。


「ただしこれは《アクロ》もこっちも速度を変えなかった場合。推定だけど《アクロ》は八十ノット以上の速度を出せるはずよ。さらに加速してくる可能性は十分にあるわ」

「じゃあ、加速して二時に来てくれないかな。一時間で戦闘を終わらせて、後はゆっくりプリンを食べられるし」


 ええい! オヤツなど気にしている場合じゃないぞ。ミク!

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