第396話 精神異常2

 レイラ・ソコロフはさらに話し続けた。


「それでも、再生する人数が二~三人程度なら軽度の精神障害で済みます。再生する人数が多いほど重傷化していきます。しかし、なぜ同時複数再生されたコピー人間が精神異常を起こすのか原因が分かりませんでした。禁止するにしても理由が必要です。そこで、犯罪防止のためという、もっともらしい理由をつけたのです」


 ちょっと待てよ。香子の話では、僕なら犯罪を起こす可能性が低いからと言って僕を七人再生する計画だったというぞ。


 危なかった! やっていたら、大変な事になっていた。しかし、《イサナ》でそれをやろうとしたという事は、コピー人間の同時複数再生の危険性を知らなかったという事になる。なぜ、レイラ・ソコロフはそれを知っているのだ?


「もちろん、コピー人間同時複数再生の危険性は広く知られていません。私は、その原因を究明するためにマトリョーシカ号に送り込まれた研究チームの一員でした。もし、船がレムに乗っ取られるような事がなければ、今頃原因を解明できていたでしょう」


 あえて触れていないけど、地球では禁止されているので、タウ・セチ恒星系でコピー人間を同時複数再生して実験しようとしていたのだろうな。


「北村さん。エラ・アレンスキーは最初一人が再生されて、この後数日の時間をあけて七人再生されたのですね?」

「そうです」

「こちらの調査記録によると、二十四時間の時間をあけて同一人物を再生した場合、精神異常はなかったことになっています」

「じゃあ、あいつの残忍な性格は精神に異常にきたしたせいだと?」

「ええ」

「あいつは元々残忍な人間だったのですよ。自分でも言っていました。地球にいたころ近所の子供を電撃で拷問したと……」

「ええ。それは分かっています。しかし、私たちの元へ来たエラ・アレンスキーは、自分の欲望や衝動を抑制する事ができるようになっているように見えます。年を取って落ち着いてきたのではないかと……」

「いやいや、僕とミールは昨日あいつから電撃食らっているのですよ」


 いや、待て。昨日確かに電撃は食らったが、以前にエラNo.5に捕まった時に食らった電撃はあんなものじゃなかった。手加減していたのか?


 しかし……


「さっき戦った時も、少年兵を拷問していた事を否定しなかった。崇高な趣味だと言っていた」

「ええ。私はここ数日彼女と話をしていましたが、若い頃は確かにそういう事をやってそうですが、ここ数十年は自重しているそうです」


 やっていたことには変わりないだろ……しかし、エラがそういう事を自重していた? ミーチャに暴行していたエラからは考えられない話だ。


「もちろん、自重しているだけで彼女の残忍性が無くなったとは言えません。だけど、誰だって心の中に闇を抱えているものです。普通の人は、その闇を外へ出さないよう抑えています。エラは若い頃はそういう衝動を抑えられなかったようですが、今は衝動を抑えて社会に適合できるようになったようです」


 そうだろうか? 社会に適合している人は乗物の中で見ず知らずのカップルに暴行したりはしないと思うが……


「まあ、完全に適合できているとは言えませんが、あなたの話していたエラよりは、かなりマシな人間になっているようです」


 まあ、以前のあいつは人に頭に下げるような奴ではなかったし……だが、まだ信用できない。


 僕は町長の方を向いた。


「町長。以前にあいつが近くの村を襲撃したと言っていましたね?」

「ええ」


 ほら見ろ! 犯罪に荷担している。


「町長さん。北村さん。実はその件に関して、エラ・アレンスキーから相談を受けていたのですよ。デポーラ・モロゾフに騙されて犯罪行為に荷担させられてしまったと……被害者に謝罪したいと……」


 謝罪!? あのエラが?


「そもそも、エラはデポーラ・モロゾフの仲間になっていたのでしょう?」

「意気投合して仲間になったわけではありません。帝国軍を脱走した後、野宿していた彼女をデポーラの一味が襲撃したのです。当然のことながらデポーラは返り討ちに遭いました。エラの力に驚いたデポーラは、エラに『仲間になってくれ』と懇願したのです。それに対してエラは、略奪などの犯罪には加担しないことと、ナンモ解放戦線に……つまり私達に渡りをつける事を条件に仲間になったのです」

「犯罪に加担しない? しかし、村を襲撃したじゃないですか?」

「それはデポーラ・モロゾフに騙されたのです。デポーラは帝国軍の野営地を襲撃すると言ってエラを連れ出したのです。エラもそれを信じたのですが、野営地だと思っていて攻撃した場所はただの村でした。しかも、エラは襲撃時に大声で名乗りをあげてしまいました。これでエラはお尋ね者となってしまい、しかも回復薬を使い切ってしまい、デポーラに逆らえなくなりました」


 デポーラ・モロゾフ! あの女……思っていたよりもワルだったのだな……

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