第386話 バットタイミング

 役所の出入り口に再び現れたサラの分身体は、大きなハンマーを持っていた。やはり、ミールと同じように分身一体ごとに武器が違うようだ。ミールはあんな巨大ハンマーは使っていないが……


 サラは片手にハンマーを持ち、もう片方の手で僕を指さす。


「そこの金色の鎧の奴」

「僕の事かな?」

「一応聞いておくが、勇者カイトとはおまえだな?」


 おいおい……そういう事は攻撃する前に聞けよ。


「どうなのだ?」

「人違いだ」


 まあ、そんな嘘でだまされるとは思えないが……


「そうか。人違いだったのか。それはすまなかった」


 え? こんなあっさり納得しちゃうの?


「金色の鎧を着ていたので、てっきりお前が勇者カイトなのかと思ってしまった。許せ」


 納得したようだ。


「では、おまえが勇者カイトか?」


 サラは芽依ちゃんを指さした。


「違います」


 芽依ちゃんはヘルメットを外して顔を見せた。


「女の子だったのか。これは失礼した。それにしても、君は可愛いな」

「あ……ありがとう……ございます」


 歩み寄ってくるサラに対して、芽依ちゃんは逃げ腰になる。


「む? なぜ、私から逃げようとする?」

「わ……私……女の人には興味ありませんから……」

「そうか。そんな可愛い顔をしているのに、残念だ」


 サラはそのまま踵を返す。


「勇者カイトはどこだ!? 出てこい」


 よし! このままどっかへ行ってくれれば……


「カイト!」


 頭上から聞こえるこの声は!?


 見上げると、頭に赤いリボンを着けたベジドラゴン……エシャーが飛んでいた。


 エシャーだけでなく、その周囲には数頭のベジドラゴンの子供が飛んでいる。


「カイト! 友達連レテ来チャッタ」


 うわわ! なんちゅうバットタイミング!


 サラが気付かなければいいが……あかん! 気付いたみたいだ。エシャーの方を見上げている。


「そこのベジドラゴン。カイトとは、勇者カイトの事か?」

「ソウダケド」

「それはどこにいる?」


 うわわわ! 教えるな! 教えるんじゃない!


「カイト、ココニイル」


 教えちゃったよ……


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