第379話 式神vs電磁能力者

 アクロの接近に気がついたエラは、輝く掌をアクロに向けた。


「さっきから、しつこく攻撃してくる式神か。でかけりゃいいというものではないぞ」


 エラはアクロに向かってプラズマボールを連続で放つ。


 アクロの巨体にボコボコとクレーターの様な穴が空いていくが、すぐに再生されてしまった。


「くそ! でかくなったせいで、憑代の位置が……」


 やはり憑代の位置が分からないようだ。まぐれで二~三発は当たるだろうけど、その程度ではカーボンナノチューブの憑代は破壊できない。


 詰んだな。エラ……


「きゃははは! 全然利かないよ。おばちゃん」


 上空からミクがエラをからかう。


「術者は、そこかあぁ!」


 ミクの乗っているオボロに向かって、エラはプラズマボールを放つ。

 

 式神を倒せないなら、それを操っている陰陽師を倒せばいいと考えたのだろう。そのエラの判断は間違ってはいない。


 しかし、アクロを操っているミクは空中という安全圏にいた。


 エラが次々と放つプラズマボールを、ミクは余裕でひょいとひょいとかわしている。ミールとキラが振り落とされないか心配だが……


「きゃはははは! 遅い! 遅い! おそーい! 遅くて欠伸が出るよ。おばちゃん」

「ぐぬぬ……降りてこい! 卑怯者!」

「ひきょうお? ほめてくれてありがとう」

「ほめてない!」


 エラは歯ぎしりして悔しがる。


 それはいいのだが、なぜさっきからアクロの動きが止まっている?


「ミクちゃん。遊んでいますね」


 あ! やっぱり……


 芽依ちゃんがミクの方に向かって叫ぶ。


「ミクちゃん。遊んでいないで、早く片づけて下さい」


 芽依ちゃん……そのセリフはまるで悪役の幹部だな……『遊んでないで、さっさと片づけろ』と幹部から命令された悪役が『へ! あっさりやっつけたら、つまらないじゃないか。もう少し楽しませろよ』とか言って油断しまくっている間に、ヒーローにやられてしまう事のなんと多いことか……

 

 この場合、ミクが悪役で芽依ちゃんが幹部でエラがヒーローという構図だが……


 ミクの奴このまま油断していると、エラの逆襲を食らいそうだな……いや、それより心配なのは……ん?


 芽依ちゃんは僕の方を振り向き、小声で言った。


「早くしないと、あの人を味方にしなきゃならなくなります」


 それだよ。心配なのは……


「ミク。早く片づけてくれ」

「分かったよ。お兄ちゃん」


 そのやりとり聞いていたエラは、ミクを指さした。


「貴様! 今まで、私で遊んでいたというのか!?」

「そうだよ。でも、これ以上遊んでいたら怒られるから、そろそろフェニッシュ行くね。おばちゃん」

「私をおばちゃん呼ばわりするな!」

「じゃあ、おばあちゃん」

「よけい悪い! お姉さまと呼べ」

「ええ……やだ」


 アクロが動き出した。拳を大きく振り上げる。


「くそ!」


 悪態を付きながら、エラはバルコニーの手すりに密着するように屈み込む。


 アクロは手すりごとエラを叩き潰そうと拳を振り下ろした。


 ガイン!


 アクロの拳が手すりにぶつかって止まった。


 バルコニーの素材も、単結晶酸素繊維モノクリスタルカーボンファイバー強化セラミックだったのか。


 拳の下数センチのところで、エラは恐怖に顔をひきつらせていた。

 

 アクロは一度手すりから離れると、拳を水平に構える。

 

 だが、エラはその隙を見逃さなかった。

 

 アクロが構えている間に、ジャンプして手すりを飛び越えたのだ。


 手すりから、地面まで十五メートルはあるはず。


 だが、手すりにはいつの間にかワイヤーが巻き付いていた。


 視線を移すと、ワイヤーを伝ってエラが地面に降りてしまう様子が見える。


「ミク! 建物に入られる。急いで」

「分かった」


 アクロがバルコニーから庭に飛び降りた。


 一方、エラは入り口を目指している。


 あの中に入られたら、アクロは攻撃できない。


 アクロは追いかけようにも庭木に行く手は阻まれていた。


「お兄ちゃん。木を倒していい?」


 よく手入れされた庭木だな。倒したら、弁償させられそうだな……


「ダメ。なんとか木を避けられないか」

「そんなことしていたら、逃げられちゃうよ」


 それもそうか。


「私が足止めします」


 芽依ちゃんが、入り口の前に立ちはだかった。左右の手にヨーヨーを構える。


「どけ!」

「どきません!」


 入り口の前で、プラズマボールとヨーヨーの応酬となった。


 は! これはチャンス!


 僕はショットガンを抜き、エラに向かって連射した。


 もちろん、弾丸は高周波磁場に捕まってプラズマ化してしまうが……


「無駄! 無駄! 無駄! 私に銃など通じない」


 うん、知っている。だが、これで高周波磁場は可視化できた。


 あとは回転軸から……


『待って! 北村君!』


 アーニャの声が通信機から流れたのは、まさに僕が回転軸の真上で引き金を引こうとしている時だった。


『レイラ・ソコロフと話が付いたわ。停戦して』


 恐れていた事態が……


「うわ!」


 通信に気を取られている間に、エラのプラズマボールが眼前に迫っていた。


 ダメだ! 避けきれない。


 とっさに電磁石弾を投げて、なんとか直撃は免れたもののロボットスーツはかなりのダメージを受けた。

 

 機能の六割が喪失。ICパックは無傷だったので、飛行はできるが《海龍》に戻るのがやっとだな。


 そうだ! 芽依ちゃんは……


「芽依ちゃん!」


 視線を前に向けると、桜色のロボットスーツがプラズマボールの直撃を受けていた。

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