第354話 敵との交渉役?
「いい加減にしなさーい!」
アーニャの怒声に、町長側も、反町長側も恐怖に押し黙る。
「私達は大切な任務の途中、この町が盗賊団に蹂躙されようとしていると知り、貴重な時間を割いて駆けつけてきたのですよ。これ以上私達の貴重な時間を下らない事でつぶさないで下さい」
下らないと言われたことに反町長派の一人が反論する。
「下らないとはなんだ! 町長の過ちを正すのは、町議会の大切な義務だ」
……とは、言っているけど、本音は『町長を辞任に追い込むまたとない好機! この機会に乗じないでどうする!』と言ったところだろうな。
アーニャはひきつった笑みを浮かべた。しかし、目が笑っていない。
「そうですか。では、私達は引き上げさせていただきます。盗賊団に蹂躙されるまで、好きなだけ政治ごっこでもやっていて下さい」
アーニャがすっくと立ち上がった。
「北村君。行きましょう」
え? マジに見捨てるの?
「待って下さい。アーニャさん」
「なに?」
「ええっと……一応、最高司令官は……僕なのですけど……」
「そうだったわね。私が勝手に決めるわけにはいかないわね。で? 最高司令官殿の判断は? この茶番につき合うのですか?」
ええっと……
ミール達の方を向いた。
「みんなの意見はどうかな?」
「あたしも、ちょっとつき合い切れませんわ」
ミールが立ち上がった。
「私も師匠と同意見だ」
キラも立ち上がる。
「あたしもつき合ってらんない」
ミクも立ち上がった。
芽依ちゃんの方を見ると……
「私は北村さんの指示に従います」
では、仕方ない。
僕は町長の方を向き直った。
「町長。僕達は盗賊団と戦うための打ち合わせに来たのです。あなた方の政争に付き合うために来たのではない。これ以上つまらない事を続けるなら、僕達は帰りますがどうします?」
え? 町長は涙を浮かべて、僕に駆け寄ってきた。
「お願い! 見捨てないで」
ちょ! 足にしがみつくのは止め!
「今、あなた達にいなくなられては町を守れません」
「だから……町を守るための相談をしようと、僕達はここに来たのですよ。あなた達はやる気あるのですか? 自分で自分を守る気のない人を助けるほど、僕ら暇人ではないので」
「あります! 私には町を守る気はあります! 無いのは、あの男です!」
町長は、さっき辞任要求をした議員を指さした。
指を挿された議員は慌てる。
「何を言う! わしだって、町を守る気はあるぞ」
「なるほど」
僕は議員の前に進み出た。
「町を守る気はあるのですね? では、なぜ町長に辞任を要求するのですか?」
「なぜって……町議会の義務……」
「それは、この状況下でやるべきことですか?」
「この状況って……」
僕は拳銃を抜いて、議員に向けた。
「な……なにをする!?」
ズキューン!
銃声が鳴り響き、議員は腰を抜かした。
まあ、空砲だけどね……
拳銃をホルスターに収めてから、僕は議員の顔を覗き込むように顔を近づけた。
「分かりましたか? 今の状況が。今、あなた達は死と隣り合わせにあるのですよ。悠長な事をやっている余裕はないのですよ」
床にへたり込んでいる議員は、目に涙を浮かべてコクコクと頷いた。
ちょっとやりすぎたかな。
「分かって頂けたなら、会議を再開したいのですが、いいですか?」
もちろん、これに異論に挟む者はいなかった。
「アーニャさんも、これでいいですか?」
「ええ、いいわ。それでは町長さん。先ほどの話の続きですけど、私達がただの盗賊団と思っていた武装勢力は、ナンモ解放戦線と名乗る反帝国組織だった。それに間違えないですね?」
「ええ、そうです。しかし、実態は盗賊団と変わりありません」
「相手がただの盗賊団であるか、曲がりなりにも反帝国組織であるかで対応を変えなければなりません。カルカは反帝国側です。ロータスにカルカが味方したとなれば、ナンモ解放戦線としては手を引くかもしれません」
そう上手くいくかな?
「町長さん。ナンモ解放戦線の首脳と会ったそうですね?」
「ええ」
「どんな感じの人でした?」
「名前はレイラ・ソコロフ。歳は六十ぐらいの落ち着いた感じの女性です。武装集団のリーダーというより、学校の先生のようなイメージの人でした」
リーダーは女だったのか。いや、当然だ。カミラ・マイスキーと同じ監獄に入っていたのなら……
「レイラ・ソコロフは、なぜ今の時期に帝国へ戦いを挑もうなどと考えたのか? 何か聞いていますか?」
「リトル東京の事はご存知ですか?」
「知っています。というより、私は先日そこへ行ってきました」
「それなら話は早いですね。ここ数年、帝国はリトル東京との戦いで疲弊しています。皇帝を倒すなら今だと、レイラ・ソコロフは判断したようです。しかし、私はどうも信用できません。帝国は本当にそんな追いつめられているのか?」
「帝国の状況はともかく、ナンモ解放戦線はリトル東京を高く評価しているようですね。それならカルカよりも、リトル東京の名前を出した方が引いてくれるかもしれません」
なるほど、そうなるか。
アーニャは僕の方を向いた。
「北村君。あなたはまだ、リトル東京防衛隊に入隊したわけではないわね?」
「え? まあ、僕は今のところフリーですけど……」
考えてみたら、この惑星に降りてから、僕はどこにも所属していないで自由に行動していたからな……
となると、僕の立場ってどうなるのだろう?
北村海斗と愉快な仲間たち? まあ、それも悪くはないかな……
「それではあなたを、リトル東京の代表者にするわけにはいかないわね」
アーニャは芽衣ちゃんの方を向いた。
「な……なんでしょう? アーニャさん」
「あなたはリトル東京防衛隊の正隊員ですね?」
「そ……そうですけど……」
アーニャは芽衣ちゃんの肩を手を置いた。
「敵との交渉、任せていいわね」
「ええ!?」
芽衣ちゃんに任せて大丈夫かな?
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