第335話 ロータスの宿

 近づいてくる帝国兵の数は四人。


 服の上から拳銃の感触を確認したその時、帝国兵は僕に声をかけた。


「そこの二人」


 帝国兵の一人が僕らの前にポスターのような紙を広げる。


「こんな奴を見かけなかったか?」


 ん? ポスターには一人の女の似顔絵が描かれていた。


 この女、エラ・アレンスキー!


「どうだ? 見ていないか?」


 僕が黙っていると、ミールが先に答える。


「ああ! この人見ました」

「なに! どこで見た?」

「乗合竜車の中です」

「乗合竜車だと? 一人だったか?」

「いえ。女の人と一緒でしたよ」

「女の特徴は?」

「紫色の長い髪をした若い帝国人です」

「ち! 同行者がいたのか。おい、お前」


 僕らに質問していた隊長らしき男が兵士の一人に指示を出す。


「今の話を聞いたな?」

「はい。聞きました」

「では本部に報告に行け。エラ・アレンスキーは乗合竜車で市内に入ったと」

「は!」


 兵士は走り去っていった。


「邪魔して悪かったな。これは謝礼だ」


 帝国兵達も去っていく。ミールの掌に謝礼のコインを残して……


「ええ! 銅貨一枚。しけていますね」


 ミールは不満そうだったが……


「しかし、上手くいったようだな。エラは帝国兵に追い回されている。これで薬を作るどころではないぞ」

「そうですね。では、カイトさん。気を取り直して店に入りましょう」

「ダメです! 二人とも……」

「Pちゃん、別にエッチをするために入るのじゃないから……人目に付かないように盗聴器を聞くために……」

「ご主人様がそのつもりでも、ミールさんはやる気ですよ。ご主人様は、ミールさんの誘惑を拒めるのですか?」


 拒める自信はないなあ……


 結局、Pちゃんの抗議を黙殺して、僕達は店に入った。


 店内に入ると、Pちゃんはポケットの奥に隠れて黙り込んでしまう。


 感情を切断カットしたのかな?


 フロントで料金と引き換えに受け取った鍵は三階の部屋。


「あら?」


 三階に登って、部屋のドアに手をかけた時、ミールが怪訝な表情をする。


「ミール。どうかした?」

「鍵が開けっ放しですわ」


 従業員が閉め忘れたのかな?


 かまわず、僕達は室内に入る。


「ホロマスクはもう解除していいよ」

「はーい」

 

 ホロマスクを解除して、僕達は部屋の奥へ入っていった。


「カイトさん。なんか変な臭いしませんか?」

「え? そういえば、部屋に入った時から妙な臭いがするな」

「これ薬草の匂いです」

「薬草?」


 先に入った人が、何かの薬を使ったのかな? まあ気にすることないだろう。


 荷物を降ろしたその時……


「動くな!」


 背中に固い物を突き付けられた。


「手を後ろに回せ」


 この声、女のようだが……


「なんですか? あなた。ここは、あたし達が借りた部屋ですよ」


 横を見ると、ミールも背中に銃のような物を突き付けられている。


「いいから、二人とも手を後ろに回せ。言う通りにすれば殺したりはしない」


 後手を縛られてから、僕は初めて相手の顔を見た。


 カミラ! それにエラ!

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