第336話 絶体絶命……と思ったが……

 これ以上ないくらい、マズい状況になった。


 なんで、ここにこいつらが……?


 後ろ手に縛られて、ベッドに並んで座らされている僕とミールの前にカミラが進み出た。


「君。日本人のようだけど、ナーモ語は分かるかしら?」

「ナーモ語は分かる」


 と、答えたけど、僕は今でも翻訳ディバイスなしにナーモ語は分からない。


 それはともかく、カミラは僕の事を知らなくて当然だが、僕を知っているはずのエラが、なぜ口を挟んでこないのだろう? てっきり『ここで会ったが百年目。ぶっ殺してやる!』とでも言って襲いかかってくると思っていたのだが……


 とりあえず、今のところエラはカミラの後ろから、僕を値踏みするような目で見ているだけだが敵意は感じない。


 カミラはミールの方に目を向けた。


「そっちの女の子はナーモ族だから、言葉の問題ないわね」

「え……ええ」


 ミールの声がひきつっていた。


 そうだろうな。今のところカミラは気が付いてないみたいだが、目の前にいる可愛らしい猫耳少女が、実はカミラを冤罪に陥れた張本人と知られたら……あまり想像したくない事になる。


「私の名前はカミラ・マイスキー。こちらはエラ・アレンスキー。彼女は帝国語しか話せないから、私が話をします。まず、最初に謝っておきましょう。これからお楽しみのところを邪魔してしまって申し訳ありません」


 え? 案外いい人みたいだな。


「私達は、事情があって帝国軍から追われている身。この部屋には一時的に身を隠していたのだけど、そこへ君達が来てしまった。だから、君達が大人しくしているなら、危害を加える気は、まったくないから安心して」


 いや、カミラ。あんたには危害を加える気はなくても、エラにはありまくりなんだけど……しかし、エラはなぜ黙っているのだろう? 返って不気味だ。


「見ての通り私達は帝国人だけど、さっきも言ったとおり帝国から追われる身です。よって、リトル東京の日本人ともナーモ族とも敵対するつもりはまったくありません。君達をこんな目に遭わせたのは、不幸な偶然の積み重ねです。無理かもしれないけど、悪く思わないでね」

「じゃ……冗談じゃありませんわ」


 声をひきつらせながらも、ミールは抗議する。


「こんな事をされて、『悪く思うな』なんて……」


 カミラが僕とミールの間に何かを置いた。


 これは……金貨? ベッドの上に金貨が五枚置かれていた。


「これは迷惑料です。私達は一時間ほどしたら、この部屋から出て行くので、それまで大人しくしていてくれから、もう五枚あげます」

「大人しくしてますぅ。お姉さま」


 お姉さまって……ミール……君って奴は……

 

「ねえ。カ……あなた、ここは大人しく、仲良くしていましょうね」


 ミールが僕にすり寄ってきた。身体が密着する。


「まって! ここで、そういう事は……」


 カミラが突然慌てだした。


 同時にエラが帝国語で何かを叫ぶ。


 そういえばこいつ、竜車の中でいちゃついたカップルに暴行したとか……


「きゃ!」


 ミールが、電撃を浴びてベッドの上に吹っ飛ぶ!


「ミ……!」


 いや待て。カミラにミールの名前を聞かれたら拙いかもしれない……


「やめろ! 彼女になにをする!」


 エラは僕の方を向いた。

 

 電撃を食らって、僕もミールの横に吹き飛ぶ。


 カミラが帝国語で何かを叫ぶと、エラは舌打ちをしてそれ以上はして来なかった。


 カミラは再び僕とミールの方を向き、ナーモ語で話しかける。


「君達。大丈夫?」

「な……なんとか」「大丈夫です。お姉さま」

「申し訳ないけど、エラの前でいちゃつくのはやめてほしいの。エラは病的なほど嫉妬深い女で、雷魔法の使い手。暴れ出したら、私でも宥められなくなるわ」


 カミラはチラっと、エラの方を見た。


「私とエラはバスルームで作業をしているから、くれぐれも大人しくしていてね」


 僕とミールが無言で頷くと、カミラはエラを連れてバスルームに行った。

 しかし、こいつらバスルームで何をする気だ?

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