第315話 港町ロータス

 そうしている間に、Pちゃんは別の映像を壁に映していた。


 今度は間違えなく衛星写真。


 カルカの近くを流れている大河が映っている。


「ミール。この川の名前は?」

「マオ川です。内海に通じている川ですよ」


 マオ川の一ヵ所に赤い矢印があった。


「Pちゃん。矢印の辺りを拡大して」

「はい。ご主人様」


 映像を拡大すると、停泊中の船団が映った。帝国艦隊だ。ほとんど木造帆船だが、その中に一隻だけ小さな装甲艦がいる。


 ミーチャの描いた船を上から見ると、こんな感じだ。


 という事は、この船が《アクラ》に間違えないな。

 

「Pちゃん。この映像はいつ撮られたもの?」

「今から、三十五分前です」


 では、まだここにいるな。


 映像を動かすと、町が映っていた。


 どうやら、川の途中にある港町に停泊しているようだ。


「あれ? ここは……」

「レイホー。この町を知っているの?」

「ここはマオ川の途中あるロータスという港町ね。何度か行った事あるよ」


 ロータス!?


「《水龍》と《海龍》の速度で、ここまでどのくらいかかる?」

「だいたい、巡航速度で十八時間ほどね。行くなら、母さんの許可取ってくるけど、どうする? 出航準備にも時間がかかるから急いだ方がいいね」

「分かった。頼む」

「じゃあ私、出航準備してくるね」


 レイホーが部屋から出ていく。


「海斗」


 香子に呼ばれて振り向いた。


「そのデータが送られてきた時に聞いたのだけど、あいつが、電脳空間サイバースペースから出てくる気になったわ」

「あいつって?」

「あんたよ」

「え?」

電脳空間サイバースペースのあんたが……」


 電脳空間サイバースペースの僕が? どういう心変わりだ?


「カトリさん! 本当ですか!?」 


 横で聞いていたミールが目を輝かせる。


「ええ、本当よ。ミールさん」


 ミールが僕の背後から抱くついてきた。


「じゃあ、このカイトさんは正式にあたしのですね」

「ええミールさん」


 香子は、芽衣ちゃんの方を振り向いた。


「芽衣ちゃん。聞いての通りだから、P0371に入れたあのプログラムは解除して」


 それを聞いて芽衣ちゃんは慌てた。


「きょ……香子さん。なぜ虫除けプログラムの事を……」

「さっき、電脳空間サイバースペースの芽衣ちゃんに聞いたわ。私のためにやったのは、嬉しいけど。知ってしまった以上、そんな恥ずかしいプログラム放置できないでしょ。解除して」

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんさない!」

「それはいいから、プログラムを……」

「ごめんなさい! 解除できないんです」

「どういう事?」

「香子。実は……」「カトリさん。実は……」


 僕とミールで代わる代わる香子に説明した。


「暴走した?」

「ああ。虫除けプログラムを解除した途端に僕に抱きついてきて……」


 香子は大きくため息をついた。


「ミールさん。悪いけど、私の分身が今後も迷惑かけるけど、許してあげてね」

「仕方ないですね。まあ、ライバルは他にもいますから、Pちゃんがいてくれた方がいいかもしれません」

「あのさ、香子……電脳空間サイバースペースの僕は、なぜ出てくる気になったの?」

「分からない。でも、どうもレムに興味を持ったみたい」


 レムに?


「じゃあ、私は《イサナ》にカートリッジを送る手配をするから」


 香子は部屋から出て行った。

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