第311話 潜水艦《海龍》1

 目をこすってみたが、やはり潜水艦が二隻ある。


 なぜ増えた? いや、僕にとっては好都合だが……


「お兄さん。こんなところで、何してるね?」


 ぼうっと見ていたら、背後から声をかけられた。振り向くとレイホーが立っている。


「レイホー。ちょっと《水龍》を見に来たのだよ。今回の事に使えないかと……」

「カートリッジ奪還作戦の事? 《水龍》を使うのは全然かまわないね」

「それは助かるのだが……ただ、作戦にはロボットスーツを二機持って行きたい。《水龍》に着脱装置を積める余剰スペースはないかと思って見に来たのだけど……潜水艦が、なぜ増えているの?」

「ああ! 遠征に行っていた《海龍》が帰って来たね」

「《海龍》?」

「《水龍》の同形艦ね。《海龍》も必要なら使っていいよ」

「それは助かるけど……それって、レイホーが決めていい事なの?」

「私に権限ないけど、お父さん助けるためなら、みんないいって言ってくれるはずだよ」

「そうか。ところで《海龍》は、今までどこに行っていたの?」

「帝国軍が来る前に、リトル東京を探しに出ていたね」

「カルカの人達は、前からリトル東京がある事には、気が付いていたのかい?」

「ナーモ族の商人から、北の方にそんな町ができたという話は以前から聞いていたね。《イサナ》の人達が降りてきたのではないかとみんな思っていたけど、そこまで行くには帝国領を越えなきゃならないね。だから、迂闊に探しに行けなかったね。だけど、香子さんと芽依ちゃんが来て、リトル東京の存在がはっきりして、しかも内海を通って行ける事が分かったね。だがら、カルカシェルターが包囲される前に、《海龍》を出航させたね」

「それが帰ってきたという事は、リトル東京との往復に成功したのか?」


 レイホーはニッコリと頷いた。


「さっき、無線連絡があったばかりね。リトル東京を見つけたね」


 潜水艦 《海龍》のハッチが開いたのはその時。


 中から乗組員が降りてくる。


 東洋人の乗組員に混じって、一人だけ西洋人女性がいた。


 歳の頃は四十代の金髪美女。エラのせいで金髪美女はトラウマになってしまったが……彼女は優しそうな顔をしている。


 レイホーが彼女に向かって手を振った。


「アーニャさん! おかえり」


 アーニャ!? という事は、彼女がアーニャ・マレンコフ?


 アーニャも親しげに手を振り返す。


 レイホーとの関係は良好そうだな。


 という事は、章 白龍と修羅場になったわけではないのか?


 いや、そもそも話を聞いた限りでは、二人は良い仲にはなっていたけど、別に恋人になったわけではない。


 キスだって、事故だし……

 

「ただいま。レイホー。そちらのハンサムは?」


 ハンサム? 誰の事だ? わ!

 

 いきなりレイホーが僕の左腕にしがみ付いてきた。


「私の彼氏ね」


 ちょ……ま……いきなり何を……


「そ……そうなの」


 いや……アーニャさん。嘘だから……


「レイホー」


 その声は潜水艦の甲板からだった。船長の帽子をかぶった中年女性がそこに立っている。


 その女性にレイホーは微笑みかける。


マー艦長、おかえりなさい」


 馬艦長? ひょっとして彼女がマー 美玲メイリン


「ただいま、レイホー。それはいいとして、今言った事が事実なら仕方ないとして、冗談なら、今すぐ止めた方がいいわよ。危険すぎるわ」

「え? 危険って? 何が?」

「いくらあなたが功夫クンフーの達人でも、四人一度に相手はできないんじゃないの?」


 え? まさか!?


 後を振り向いた。


 うわわわわわわ!


 Pちゃん、ミール、ミク、芽衣ちゃんが怖い顔でこっちを睨んでいた。

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