第306話 病室2

「……だが、この惑星に降りて五年目、カルカ国は核攻撃を受けた。我々はシェルターに避難したが、外部との情報を遮断されてしまった。シェルターから出ても、宇宙との交信手段がなく、《イサナ》の到着をずっと確認できないでいたんだ」


 そこまで、話したところで章 白龍は俯いた。


「すまないが、疲れた。少し、眠らしてもらおう」


 そのまま彼は、ベッドの上で目を閉じる。


「待って! 白龍君」


 ミクがベッドに近寄った。


 章 白龍は、再び目を開いた。


「あたし、ふったんじゃないから。白龍君にプロポーズされて、本当は嬉しかったんだから……でも、急に結婚って言われて、びっくりしちゃって……だから、お友達から始めたいって……そういう意味で言ったんだから……」


 章 白龍はにっこりと微笑み、ミクの頭を撫でた。


「ありがとう。その言葉をずっと聞きたかった。今から、君と結ばれる事は出来ないが、この惑星に降りてから君との再会をずっと夢見ていた。夢見ていたからこそ、僕はレムと戦い続ける事ができたのだ。ありがとう」

「白龍君……」


 章 白龍は再び目を閉じる。


 ミクはその手を握りしめて涙を流し嗚咽を漏らしていた。

 

 一瞬、臨終かと思ったが、眠っただけのようだ。


 僕は楊 美雨に顔を向けた。


「彼は、なんの病気なのですか?」

「原爆症です」

「原爆……それじゃあ、カルカが核攻撃を受けた時に……」

「ええ。その時に被爆しました。それでもその時はなんともなかったのです。それが、数年前に突然発症しまして……」


 気の毒に……


「本当に……彼は助からないのですか?」

「医者が言うには、十分なナノマシンが揃わなかったのです」

「だって……ナノマシンはプリンターで……」

「ええ。ただ、夫に投与するナノマシンの製造を途中で止めて、兵器の製造を始めました。その兵器を作ったために、ナノマシンの製造に必要な数種類のレアメタルが足りなくなったのです」

「レアメタル! それなら、僕の車の中に……」

「申し訳ありません。北村さんが、持って来たレアメタルにも手を付けてしまったのです。鹿取香子さんの許可は、取りましたが……」

「あちゃー」


 不意にミクがこっちへ駆け寄る。


「《イサナ》に問い合わせてみて。まだ、レアメタルが残っているかも……」

「綾小路さん。すでに問い合わせました。《イサナ》にもリトル東京にも残っていないそうです」


 それじゃあ、章 白龍を助ける事はもうできないのか? レアメタルさえあれば助かると言うのに……



 ……いや、まだ可能性はある。


(第十一章 終了)

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