第305話 六年持ち堪えれば……(天竜過去編)
この惑星の知生体は、頭に猫耳がある以外は、地球人と変わらない姿をしていた。
先に聞いていたが、ナーモ族という種族らしい。
そのナーモ族の少女が、僕と
「ありがとう」
礼もそこそこに僕達は水を一気に飲み干す。
「ごめんなさい。二人を置き去りにしちゃって」
「いえ。良いですよ。助けを呼びに行っていたのでしょ」
「そうじゃないのよ」
「え?」
楊さんは後ろに控えているナーモ族の一団を指差した。
「船から出たところを、この人達に捕まってしまったの」
「捕まった?」「だって、現地人との話はついていたのでしょ?」
「代表者とはね。でも、末端に兵士には伝わっていなくて。私達の姿を見た偵察兵が、私達を帝国の人間と誤解したのよ。翻訳機の用意をしていなかったので意思疎通ができなくて、私達はカルカ国の首都へ連行されたの」
「あの……帝国って?」
「マトリョーシカ号から降りたコピー人間達が作った国よ。カルカ国は、まだ直接の被害は受けていないけど、帝国に土地を追われた避難民がかなりこの国に来ていたの。偵察兵の中にはその避難民がいたのよ」
「しかし、どうやって誤解を解いたのです?」
「首都に行ったら《天竜》の使節団がいたわ。おかげで、すぐに誤解は解けたの。でも、その後が大変だった。《朱雀》がどこにも見当たらなくて」
砂に埋もれちゃったからね。
趙 麗華が楊さんの前に進み出た。
「置き去りされたのは仕方ないとして、私達だけどうして目覚めなかったのです?」
「月面基地を攻撃した直後に、あなた達の機体を通じてハッキング攻撃をかけられたのよ」
「ハッキングですって!?」
「でも、洞窟内ではニュートリノを使っていたから……」
「それが、幸いしたの。ニュートリノ通信はすぐに切れてしまったから、最初のハッキングには失敗したけど。今度は《朱雀》内のあなた達のBMIに直接ハッキングをかけて来たわ。すぐにブロックしたけど、その影響であなた達の意識が戻るのに時間がかかってしまったのよ」
そんな事が……
「それから、《天竜》は海に落ちたわ。その前に必要な物と人間はすべてシャトルに積み込んで置いたけど。しばらく私達は、カルカ国の庇護下に入ることになるわよ」
「そうですか」
分かっていた事なのに、《天竜》が失われた事を聞いて、僕は少なからぬショックを受けていた。《天竜》は、ただの船じゃない。僕達の家だったのだ。
その家を守るために、青竜隊白虎隊の人達は死んでいったというのに……
「二人とも、落ち込んでいる場合じゃないわ。これからが大変よ」
え?
「私達はこれから、現地の人達と手を組んで、レムがこの惑星に築いた帝国と戦わなきゃならない。落ち込んでいる場合じゃないわ」
「その前に、聞きたい事があるのですけど……」
「なあに趙 麗華さん」
「レムから、降伏勧告があったと言うのは、本当ですか?」
楊さんは一瞬押し黙った。
「なぜ……それを」
「事実ですか?」
「事実よ」
「それを公表しなかったのですね?」
「ええ」
「正しい判断です」
「え?」
「公表していたら、きっと私の馬鹿叔父が騒ぎ立てたでしょう」
いや、叔父さんの事を馬鹿呼ばわりしなくても……
「だけど、どうしてその事を……」
「それは、章君に聞いて下さい」
そして、僕はレムと接触した事を話した。
「そんな事が……」
「楊さん。僕はレムと接触して分かったんです。上手く言えないけど、あいつはすごく危険な奴だって。降伏なんて、絶対しちゃいけない」
「分かったわ。とにかく、今の話、カルカの首都に着いたら、船長達の前でも話してもらうけど、いいわね?」
「はい」
僕達は、楊さんが運転するサンドバギーに乗り込んだ。
車が走り出してから、僕は楊さんに尋ねる。
「楊さん。僕達、帝国に勝てるのでしょうか?」
楊さんは、首を横にふった。
「無理ね。敵は数が多すぎる。今の私達だけでは勝てない」
「そんな……」
「でも、希望はあるわ」
「え?」
「六年よ。六年持ち堪えるの。六年持ち堪えれば《イサナ》が来てくれる」
「《イサナ》が……」
「
「え?」
横から、趙 麗華が揶揄してきた。
「あらあ? 章君どうしたの? 顔が赤いわよ」
「え!?」
慌てて僕は頬を手で押さえた。
「なんて嘘。で、その未来ちゃんって誰?」
そう言えば、こいつには話したことなかったな。
「君には関係ない」
「なによ! 教えなさいよ」
「減るから、ヤダ」
「減らないわよ! 教えさないよ。ケチ!」
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