第278話 レム?(天竜過去編)
会議は
ただし、発言権は一部の人しかない。もちろん、僕みたいな子供に発言権があるわけなく、
楊さんはエリートだから、発言権はあるみたいだけど、
生身の方が、アーニャと直接関わったからだ。
会議場の中央に、小熊のようなキャラクターが現れた。これはアーニャのアバター。ちなみに僕のアバターはパンダだ。
小熊が会議場のみんな向かって挨拶した。
「私はアーニャ・マレンコフ。《天竜》の皆さん。宇宙を漂っていた私を、救って頂きありがとうございました」
小熊は深々と頭を下げる。
「私が乗っていた船は、マトリョーシカ号でした。私はその船から逃げ出してきたのです」
会議場の中が一斉にざわついた。
「皆さんの認識ではマトリョーシカ号は、三十年前に行方不明になったそうですね。私の認識では、事件が起きたのは数日前なのです。ただ、私はその後、仲間に起こされるまでは、休眠状態にあったため、時間の感覚がおかしくなっているようです。いったい何が起きたのか、正直言うと私もよく分からないのです。ただ、分かっているのはマトリョーシカ号がレムという存在に乗っ取られ、宇宙条約で禁止されている侵略行為を始めた事。そして地球の船……つまり《天竜》が近づいてくる事を察知したレムは、《天竜》の破壊を目論んでいる事です。私はこの危機を皆さんに伝えて、レムと戦ってもらうために送り出されました」
白い兎のアバターが発言を求めた。
「戦うと言われても、そもそもレムとは何者なのかね? どんな力を持っている? 聞くところによると、
「レムの関しては、私もよく分からないのです。
「
「レムに明確なアバターはありません。
「飲み込む?」
「私が見た感じでは、黒い霧は他人のアバターを包み込んで分解してしまうのです。私はそれを飲み込むと言ってました」
「では、その事はいいとして、レムという存在はマトリョーシカ号を完全に支配下に置いていて、その装備で、我々を攻撃してくるというのだね?」
「そうです。だから、あなたたちにレムと戦ってほしいのです」
「戦えと言われても、この船には宇宙で戦える兵器はない」
「兵器に関しては大丈夫です。この船にないというのは、兵器のデータがないという事ですね。データは私が乗って来たカプセルの中に入っています。この船のプリンターにかければ兵器を出力できます」
狐のアバターが発言を求めた。
「確かに君の乗ってきたカプセルの中に、データカードがあった。まだ、中を見ていないが、そのカードに兵器のデータのあるのかね?」
「そうです」
「それは良いのだが、一緒にマテリアルカーリッジも入っていたが、まさかあんな物騒なものも使えというのか?」
マテリアルカートリッジが物騒? どういう事だろ?
「そうです。使って下さい」
「冗談じゃない! プルトニウムのカートリッジなんか、我々のプリンターでは扱えない!」
プルトニウム!? そんな物が……じゃあカプセルから、放射線が漏れていたのはそのせい?
「そんなはずはありません。使用しないカートリッジと入れ替えれば使えるはずです」
「たしかにできない事はないが、プルトニウムなんか扱ったら、プリンターが壊れてしまう。運よく壊れなくても、そのプリンターは放射性物質に汚染されて、除染しないと使えなくなるのだぞ」
「カードの中には、放射性物質を扱えるプリンターのデータがあります。この船のプリンターでそれを作って下さい。それを使えば問題ありません」
龍のアバターが発言を求めて手を上げた。これは船長のアバターだったと思う。
「そのレムという存在を倒すのに、核は必要なのかね? できれば、そんな物騒な兵器は使いたくないのだが」
「分かりません。ただ、レムはマトリョーシカ号のコンピューターの中にいます。確実に倒すには、核を用いた電磁パルス攻撃がもっとも有効だと聞いてきました」
「しかし、通常兵器ではダメなのかね?」
「時間をかけすぎると、奴が逃げ出す可能性があります」
「逃げる? どこへ?」
「レムはコンピューターのプラグラムのようなものです。コピーを作って、他のコンピューターへ逃亡する事も可能です」
「という事は、《天竜》のコンピューターも乗っ取られるのでは?」
「その可能性はありますが、コンピューターウイルスの様に簡単には感染はしません。ウイルスを送り込んでくるかもしれませんが、それは通常のウイルス対策ソフトで防げます。それよりも、奴は惑星上に大型コンピューターを作っている様子です。時間をかけすぎると、そこへ逃げられてしまいます」
「とにかく、情報が少ない。戦う前に偵察の必要がありそうだな。それと、この事は地球に報告しよう」
「偵察はもちろんやった方がいいですが、地球への報告は恐らく無理でしょう」
「どういう事だ?」
「レムは、地球の船が来て、この事を報告される事を恐れています。だから、太陽系の方向に通信を送れないように、ジャミングをかけています」
「どうやってジャミングを?」
「オールト雲の中にジャミング用宇宙機を撒いているのです。この船はオールト雲でデブリにぶつかったそうですね。おそらく、それは宇宙機の一つです」
「なんだって!?」
確かに、デブリとの衝突の後、定期的に地球から送られてくる電波が受信できなくなっていた。そのうちに回復するだろうと、みんな楽観していたけど、これってジャミングされていたのかな?
「この船に損害を与えるほど大きなデブリなら、レーダーで発見して避けるなり破壊するなりできたはずです。それにも関わらずぶつかったという事は、レーダーに映らないステルス性のある宇宙機の可能性が大きいです」
「確かに、レーダーにまったく映っていなかった。レーダーの故障かと思っていたが……とにかく、地球との通信だけでも回復させたい。その宇宙機を何とかできないだろうか?」
「私の持ってきたてデータカードの中に、ジャミング用宇宙機のデータもあります。あなた方なら、そのデータから対策を立てられないでしょうか?」
「分かった。やってみよう」
それからしばらく話し合いが続き、マトリョーシカ号のいる惑星には偵察隊を送る事にして、《天竜》は手ごろな外惑星に隠れて《イサナ》の到着を待つことに決定した。
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