第250話 成瀬真須美からの連絡
「キラ」
三人の亡骸を抱えて岸へ戻り、キラを呼び出した。
「キラ。帝国軍は遺体を持ち帰らないで火葬するそうだが、弔いはしないのか?」
正直、弔いなんて無意味かもしれない。そもそも、そういう事をするなら戦闘で直接殺した敵兵も弔うべきじゃないか?
自分でも、矛盾しているのは分かっていた。自己満足だというのも分かっている。
分かっているが……この女の子達は、丁寧に弔ってやりたい。
そう思ってキラに尋ねてみたのだが……
「火葬する前に、弔いの儀式はするが……」
「この人達を、弔ってやってくれないか」
「私に神官の代わりを務めろというなら、無理だぞ。葬儀には参加したことはあるが、いつも目立たない隅っこで欠伸を噛み殺していたんだ。神官がどんな事を言っていたかなんて、覚える前に耳にすら入っていない」
「そうか……」
まあ……それを攻める気になれないな。
僕だって、葬儀に出た事はあるが、僧侶の唱える読経なんて、何を言っているのかさっぱり分からないし……
「北村さん!」
芽衣ちゃんの声の方に目を向けた。
運河の水面上を桜色のロボットスーツが滑るようにこっちへ向ってくる。
「この人、まだ息があります」
芽衣ちゃんの腕には、女性兵士が抱かれていた。
この娘も……砲兵隊の……
一人だけでも、生き残っていたのか。
「サーシャさん」
そう言って、ミーチャが横たわっている女性兵士の傍らに歩み寄ってきた。
「ミーチャ。知っている人なのか?」
「はい。同じ孤児院にいた人です。頭が良くて、高等学校へ進学していたのですが、軍隊に徴用されて……今回のカルカ侵攻部隊に配属されて、僕と再会しました」
見かけ通り女子高生か。なにも、こんな女の子まで、徴用しなくても……
その時、サーシャがゆっくりと目を開いた。半身を起こして周囲を見回す。その視線が、僕に向いた時……
「きゃあああ!」
傷つくな。何も人の顔を見るなり、悲鳴を上げなくても……あ! ロボットスーツを着たままでは確かに怖いか。
「サーシャさん! サーシャさん! この人は悪い人じゃありません」
ミーチャが宥めに入る。
「ミーチャ!」
サーシャがミーチャを抱きしめた。
「ちょっと! サーシャさん! 苦しいです」
まあ、彼女が落ち着くまで、しばらくそうさせておこう。
「ミーチャ」
ん? なんだ? キラ……引きつった笑みを浮かべて……
「その人は、頭を打っているかもしれない。すぐに病院に運ぼう」
え? 頭なんか打っている様子はないが……
キラの背後から、もう一人キラが担架を持って現れた。分身体? 新しい憑代はまだ作っていなかったはずだが……
「キラ。憑代はどうしたんだ?」
「最初の分身が消えた場所に落ちていた」
そのまま二人のキラは、サーシャをミーチャから引き離して、担架に載せて去っていく。
残されたミーチャは、キョトンとした顔でそれを見送っていた。
「困ったものですね」
その様子を見ていたミールが、頭を押さえながら言う。
「修行中は、恋愛禁止と言ったはずなのに……」
「恋愛って、キラが誰に?」
「分かりませんか?」
「え? ミーチャに?」
ミールは頷く。
「そうです。今の、どう見ても焼もちですよ」
キラって、ショタコンだったのか。
「お兄ちゃん」
ミクが近くに降りる。
「上流見に行ったけど、もう流されている人いなかった」
「そうか」
シェルターへ引き上げようと考えた時、Pちゃんから呼び止められた。
「ご主人様」
背後からPちゃんの声? 振り向くと、Pちゃんが人型ドローンを持っていた。
「あの方が、お話したいそうです」
いけね! 成瀬真須美との連絡を忘れていた。
シェルター内は、電波が届かないからな……
Pちゃんから、人型ドローンを受け取った。
「成瀬さんですか?」
『やっとシェルターから出てきてくれたのね。矢納がどうやって逃げたか分かったわ』
「どうやったんです?」
『私達がリトル東京を逃げ出す時、矢納はロボットスーツ用のICパックに使う非バリオン物質を盗み出していったの。私はてっきり自分用のロボットスーツを作った際に使うためかと思っていたけど、それだけじゃなかった。あいつが使っていたトレーラー牽引用の車両に、飛行能力を持たせるのにも使っていたのよ。あいつが轍も残さずに逃げられたのは、車が宙に浮かんでいたから』
以外と単純な方法だったな。
『ただし、レーダーに映らない様に超低空飛行でね』
「それじゃあ、あまりスピードは出ないのでは?」
『そうよ。だから、あいつはすぐ近くの窪地に隠れて君をやり過ごしていたの』
しまった! あの時、周辺をよく探せば見つけられたのか!
「なるほど。ところでもう一つ聞きたいのですが、なんで水門を開いたのです?」
『こちらの作戦までは、教えられないわ』
「作戦までは聞いていません。どうせ艦隊で来るためでしょう。僕が聞きたいのは……」
僕はドローンを溺死体の一つに突き付けた。
「彼らが運河から逃げていると言うのに、なぜ水門を開いたのです?」
『え!? まだ運河に、人がいたの?』
知らなかったのか?
「いたから、僕らが救助活動をしているのですけど……」
『冗談じゃないわ! 運河には、もう人がいないというから水門を開いたのに』
「あなたが開いたのですか?」
『当然よ。この水門は《天竜》の乗組員が作ったコンピューターで制御されている。科学文明を失った帝国人には動かせないわ』
「ドローンとかで確認しなかったのですか?」
『そんな余裕なかったのよ。帝国軍の提督が、全員運河から退避させたというから信じたのに……』
「いいでしょう。あなたは知らなかったのですね。それで話を戻しますが、矢納さんは、次はどんな行動をとります?」
『矢納も一緒に攻撃に向かったわ。どこにいるかは分からないけど、対戦車ライフルを装備したジェットドローンを用意していたから気を付けてね。それともう一つ、注意してほしい事が……』
「なんでしょう?」
『エラ・アレンスキーが、そっちへ向かったわ』
「え? あの女は死んだはず?」
『あの女が、コピー人間だという事は知っているわね。あいつは三十年前に、八人作られたのよ』
「あんなのが八人も!」
『そのうち一人は、君の仲間が倒したわね。以前に炎の魔神カ・ル・ダモンが一人倒している。まだ六人はいるわ』
エラがダモンさんと戦ったときに言っていたナンバー8って、そういう事だったのか。
「全員粛清対象なのですか?」
『それは分からない。でも、そっちへ向っている奴は粛清対象よ』
「そっちが艦隊で来るのは分かっています。どの船を沈めればいいか、教えてもらえますか?」
『ちょっと待って』
向こうから、ガサカサと紙をめくる音が聞こえた。
『マカロフという船だったわ。これに矢納もエラも乗っているのだけど……これを沈めるのはちょっと厄介よ』
「厄介? どうせ木造帆船でしょ」
『それが、ちょっと違うのよ。一隻だけ……ごめん! これ以上連絡は出来ない。また後で』
通信は切れた。
なぜ沈めるのが厄介なのか、指令室に行って僕はそれを知ることになる。
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