第248話 帝国軍の新たな動き

 ヤン 美雨メイユイとレイホーの母子は、僕らに茶と月餅を配ってから席に着いた。


「北村さん。話を始める前に礼を言わせて下さい。娘が盗賊に襲われているところを助けて頂いたそうですね」

「いや……それほどでも……人として、当然の……」


 ん? 突然香子に腕を引っ張られた。


「なに? 香子?」

「海斗。さっき私達の話しを聞いていたわよね。レイホーさんを盗賊から助けてお店に招待された男がいたってことも」

「そ……そういえば、そんな話もしていたね」

「それって、海斗の事だったの?」

「あれ? 言わなかったっけ」

「聞いてないわよ」


 確かに言ってなかったな。いや、言うとややこしくなりそうと思って黙っていてそのまま忘れていた。


「い……いや、後で言おうと思って忘れていたのだと思う」


 香子の反対側から、芽衣ちゃんが僕の耳に口を寄せてきた。


「気を付けて下さい。レイホーさんはあの夜、北村さんを酔いつぶして、逆NТRを目論んでいたのですよ」

「やだなあ……芽衣ちゃん。そんなの冗談に……」

「大丈夫ですよ」


 ミールが、背後から僕に手を回して抱き着いてきた。


「あたしの目の黒いうちは、そんな事はさせませんから」


 そこへPちゃんが横から割り込む。


「ミールさんの目が白くなっても、私がさせませんから」


 この状況に、楊 美雨が困惑していた。


「話が進まなくなるから、みんな離れて」


 女子たちが僕から離れたところで、《天竜》がタウ・セチに着いてからの事を楊 美雨に質問してみた。


「その事について詳しくお話ししたかったのですが、先ほど帝国軍に新たな動きがありました。先にその対策についてお話したいと思うのですが、よろしいですか?」

「新たな動き? 何があったのですか?」

「これを見て下さい」


 楊 美雨がリモコンを操作すると、ラウンジの巨大スクリーンに映像が現れた。


「これは!?」


 さっきまで、乾き切っていた運河に水が流れていた。今のところ、ちょろちょろとした小川だが……


「帝国軍は、水門を開いたということでしょうか?」

「そうです。次は船で攻めてくるつもりでしょう」

「船!?」

「斥候の調査では、水門付近に敵艦隊が停泊しています」

「艦隊が来ていたのですか? それにしてはドームに攻めてきた敵が少なすぎます」

「あれはこちらの出方を見るための威力偵察だったのでしょう。敵は、まだ我々がプリンターを持っているか分かっていなかったと思います。しかし、今までの戦いで我々がプリンターを失っている事は分かってしまったのでしょう」

「しかし、プリンターは僕が持ってきた。それは向こうも分かって……」

「分かっているからこそ。大急ぎで攻めてくるのです。こちらが、プリンターを使って体制を整える前に……」


 そうか。プリンターがあっても、それで武器を作るには時間がかかるんだ。


「迂闊でした。そうと分かっていれば、医療用ナノマシーンは後回しにするべきでした」

「済んだ事を言ってもしょうがないですよ。とにかく、プリンターは好きに使っていいですから先に武器を作って下さい」


 僕がそう言った時、女子たちのざわめく声が聞こえた。

 声の方に目を向けると、ミールも香子もミクも芽衣ちゃんもキラもミーチャも目がスクリーンに釘付けになっている。

 スクリーンに映っている運河の水量は、かなり増えていた。

 その中を、何かが流されている。


 あれは!?


「人が、流される」


 香子が言った通り、人や馬が運河の中を流されていた。


 帝国軍は運河の上を敗走していく味方がいるにも関わらず水門を開いたのか?

 知っていてやったのか? 知らずにやったのかは分からないが……


「助けよう!」


 部屋を出ようとした僕の肩を、香子が掴んで引き留めた。


「海斗。あれは敵よ。それでも、助けるの?」

「違うよ。あれは、敵ではない。溺れて救助を待っている人達だ」

「まったく……あんたって、再生されても変わらないわね」

「前の僕はどうだったか知らないけど、僕は二百年前の人間だ。二百年の間に、ジュネーブ条約はなくなっちゃったのかい?」

「いいえ。無くなってはいないわ」

「それなら、条約は守らないと。宇宙条約を破った帝国を非難している僕らが、ジュネーブ条約を破るなんて、ダブルスタンダートは良くない」

「そうね。でも、敵はすぐにでも攻めてくるのよ。迎え撃つ準備をしなきゃならない」

「僕一人で行くよ。香子達は楊さんを手伝って戦闘の準備をしていてくれ」

「ご主人様。私も連れて行って下さい」

「Pちゃん」

「ご主人様のお手伝いをするのが、私の役目です。ご主人様が人命救助をするなら、私が行くのは当然です」

「あたしも行きます」

「ミール」

「あたしの分身は空を飛べませんが、カイトさんが拾い上げた人達を応急手当するぐらいならできます」

「北村さん。私も行きます」

「芽衣ちゃん」

「私が行けばロボットスーツは二機になります」

「それは助かる」

「お兄ちゃん。あたしも行くよ」

「ミク」

「オボロなら、ロボットスーツよりも早いよ」


 結局、Pちゃん、芽衣ちゃんとミール、ミク、それにキラとミーチャを伴って僕達は運河に出た。

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