第243話 救出(過去編)
ドームの上に登って、芽衣は通信機のスイッチを入れた。
送信は出来ないが、
案の定、通信機から女の子の声が聞こえてきた。
『もう、お兄ちゃんてば、あたしの実力分かってないんだから。オボロの能力なら、あんなドローンの十や二十どうってことないのに』
間違えなく、未来の声だった。しかし、誰と交信しているのか?
未来が『お兄ちゃん』と呼ぶ相手は……
「まさか!? 北村さん」
『だから、残りの四機は、全部あたしが落としてやるから任せて』
電波の方向に目を向けた。
程なくして、金色に輝く龍の姿が目に入る。
飛び立とうとしたその時、緊迫した若い男の声が通信機から飛びたした。
『ミク! すぐに戻ってこい!』
「この声は!? 北村さん!」
間違えなく海斗の声だ。やはり、海斗はこの惑星に来ていた。
「北村さん……やはり、来てくれていたのですね」
思わず、目頭が熱くなってくる。
だが、感傷に浸っている場合ではなさそうだ。
『よせ! ミク! 本当に危険なんだ!』
海斗の声には、ただ事ではない緊迫感が籠っていた。
なのに、未来は一方的に通信を切ってしまった。
何かあったに違いない。
芽衣は、飛び立った。
未来のいる空域へ向かう途中、別の女の子の声が通信機から聞こえてきた。
『ご主人様! 新手の飛行物体が、戦闘空域に向かっていきます』
(この声は? P0371? いけない! 私、敵だと思われている)
しかし、誤解を解こうにも送信できない。
誤解を解くには一刻も早く、未来と合流するしかない。
芽衣はさらにスピードを上げた。
突然、前方で強烈な光が瞬く。
再び通信が入った。
『お兄ちゃん、見てくれた?』
未来の声にはどこか元気がない。
『ああ。見たぞ、よくやってくれた』
『あたし凄いでしょ』
『ああ……すごいぞ』
『へへへ……ほめてほめて! あれ?』
『どうした? ミク』
『な……なんか急に力が……抜けて……』
(まさか! 魔力切れ? あの高さで式神が消えたら……)
『ミク。そっちに菊花が向かっているのが、見えるか?』
『キッカ? ああ! お兄ちゃんのジェットドローンね。見えるよ』
『菊花が近づいたら、それに飛び移れ。おまえの重さなら、菊花のリフトファンでも持ち上げられる』
芽衣は無理だと思った。いくら未来が軽くても、ドローンで支えられるはずがない。
今、未来を助けられるのは自分しかいない。
『え? なんで? あたしにはオボロが……あれ? オボロが消えそうだよ。お兄ちゃん! 助けて! オボロが消えちゃう!』
「菊花がそっちに行くまで、オボロを持たせるんだ!」
『うん、分かった。オボロ。もう少し頑張って!』
(無理です。北村さん。ドローンでは支えられません)
しかし、今のスピードでは、芽衣も間に合いそうにない。
芽衣は迷うことなく、加速コマンドを唱えた。
「イナーシャルコントロール プロモーション三G」
二G以上の加速は装置を痛めるので、それ以上の加速は緊急時のみとされている。
今こそ、その時と芽衣は判断したのだ。
芽衣のスピードが一気に上がる。
途中で海斗のジェットドローンを追い抜いた。
前方に今にも消えそうな金色の竜に、未来がしがみ付いていた。
「未来ちゃん! 今、助けるわ!」
突然、竜が光の粒子となって消滅。
光に包まれた空中に、一人の少女が漂っている。
すんでのところで、芽衣は未来の身体を受け止めた。
だが、安心するのはまだ早い。
芽衣のロボットスーツも限界が近づいていたのだ。
北村海斗との合流は諦め、一度ドームに引き返すことにした。
「未来ちゃん。未来ちゃん」
ドームへ戻る途中、芽衣は腕の中でじっとしている未来に声をかけ続けた。
だが、未来は意識を失っているらしく、一向に目を開かない。
芽衣はドームに着くなり、未来を抱えてシェルター内の病院に駆け込んだ。
「急激な魔力切れによって、意識を失っただけのようです」
ベッドの上で昏々と眠る未来を診察したター・メ・リックは、徐に芽衣の方へ振り向いた。
「未来ちゃんは、大丈夫ですか?」
「私は、医者ではないが、魔力切れを起こした魔法使いは何人も見ています。魔力切れなら、もうすぐ目を覚ますでしょう。ただ、その時は猛烈な空腹に襲われるので、何か食べるものを用意しておいてあげて下さい」
「分かりました」
「それと、魔法回復薬を作っておきます。出来上がったら、届けにきます」
「え! 材料がなかったのでは?」
「昨夜、レイホーお嬢様が届けてくれたのですよ」
ター・メ・リックは、そう言って病室から出て行った。
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