第240話 電磁誘導(過去編)
芽衣は、さらに言葉を続けた。
「あなたに近づく弾丸が、プラズマ化したのは電磁誘導の応用によるもの。電気電流を操れるあなたなら、磁場を操れても不思議はない。あなたはその能力を使って、身の回りに強力な高周波磁場を発生させていたのですね。それで、近づく弾丸は加熱されプラズマ化してしまっていた。そうなのでしょう?」
ここでエラは、不敵な笑い声をあげて『よくぞ見破ったあ!』というリアクションをすると、芽衣は予想していた。だが、エラのリアクションは予想外だった。
エラはただ、唖然として芽衣を見つめているだけだったのだ。頭の上には?マークが浮かんでいるように見えたのは、目の錯覚である。
「違いますか?」
「いや……違うも何も、お前の言っている意味が分からんのだが……すまん。その……電磁誘導とはなんだ?」
「ですから……マイケル・ファラデーの法則ですよ」
「マイケル・ファラデー? 誰だ? それは」
「中学校で、習いませんでした?」
「私は十二歳でデータを取られたと言っただろう。それ以降の教育は受けていない」
「そうでしたか。それじゃあ、あなたはどうやって、弾丸を防いでいたと思っていたのですか?」
「ふふふふふ」
ここで初めて、エラは不敵な笑い声を上げた。
「あーははははははは!」
ひとしきり高笑いを上げた後……
「知らん」
「はあ? ご自分の能力でしょ」
「そんな事を言われても、知らんものは知らん。あれこれやっている内に、いつの間にかできるようになってしまっていただけだ」
芽衣は、微かに頭痛を覚えた。
「だが、確かに貴様の言う通り、私の能力では金属以外の物は防げなかった。理由は分からなかったが、そのマイケル・ファラデーの法則とやらが原因のようだな。いったい、それはなんなのだ?」
「ええっと……磁石って分かりますか?」
「そのぐらいは知っている」
「金属と磁石を近づけたり遠ざけたりすると、金属の中で電流が発生するのです。これが電磁誘導です」
「ふむふむ」
「金属と磁石の間の速度が速いほど、電流が強くなります。あなたの場合は、ご自分の周囲に高速で回転する磁場を発生させていたと思われます。金属の弾丸が回転磁場の中に飛び込むと、弾丸内部で電流が発生し、それによって発熱します。その熱で弾丸がプラズマ化していたのです」
芽衣はさらに時間をかけて電磁誘導について説明した。
その間に、バリケード内では怪我人の収容が終わっていた。
一方、帝国軍の方は、どうしていいか分からず、困惑していた。
「中隊長。どうするんだ? このままでいいのか?」
若い中隊長に、ダサエフが詰め寄る。
「いや……そう言われても、エラ・アレンスキーを怒らせると、黒焦げにされかねないからな」
「たく! エラといい、キラという、魔法使いにはろくな奴いないな」
一方、芽衣を追いかけてきたドローンは、ドーム上で待ち構えていた香子に撃墜されていた。
芽衣の説明が終わったのはその時である。
「ですから、磁石に反応しない石や木は、エラ・アレンスキーさんの能力に反応しないのですよ」
「ううむ……そうだったのか。これで、今までの疑問が解消した。教えてくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。それでは、私は先を急ぎますので、この辺で失礼させていただきます」
「うむ。道中気を付けてな」
バリケードの方へ去っていく芽衣に向ってエラは手を振った。実に心温まる光景である。
「あの……大尉」
部下がエラに声をかけるまでは……
「大尉。このまま、あいつを行かせてよろしいのですか?」
ハッと気が付いて、エラは芽衣に向かって両の掌を向けた。
「こらあ! 待たんかーい!」
特大の光球を芽衣に向けて放つが、着弾したときには芽衣は空中にいた。
「降りてこい!」
「お断りします」
芽衣はエラの直上から、拳ほどの石を投下した。
「うわあ!」
落ちてきた石を避けながら、エラは光球を放ち続ける。
しかし、空中を素早く飛び回る芽衣には当たらない。
芽衣も次々と石を投下する。
「降りてこい! 卑怯者!」
叫びながら、エラは光球を放つ。
「そんなに褒めないで下さい。照れるじゃないですか」
そう言って、芽衣はヤシの実ほどの石を投下した。
エラの近くにいた将校が犠牲になる。
エラは中隊長の方を向いた。
「ぼうっとしてないで、あいつを攻撃させろ」
「しかし……あいつには銃が通じない」
「RPG7はどうした?」
「さっきの戦いで、ほとんど潰された。残っているのは三門だけで、弾も残り少な……」
「ああ!?」
エラに一睨みされ、中隊長は震え上がった。
逆らったら、殺される。
「RPG7用意。撃ったら、直ちに移動しろ」
帝国軍の中から、三発のロケット弾が芽衣に向かって飛翔する。
だが、芽衣は嘲笑うかのように、すべてひらりと躱してしまった。
一方、バリケード内では、ロケット砲の発射を確認して、その射点に向けて迫撃砲を撃ちこんだ。
迫撃砲が着弾する前に、ロケット砲の射手たちは移動したが、その様子はドームの上から見られていた。
香子とレイホーは、ロケット砲の射手を一人ずつ撃ちぬいていく。
ふいに、レイホーの視線が一人の男に止まった。
その男の階級章を暗視スコープで確認。
「ラッキー! 司令官見つけたね」
レイホーが引き金を引くと、中隊長の首はたちまち炎に包まれた。
その夜、指揮官を失った帝国軍は、撤退を余儀なくされたのである。
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