第239話 エラの弱点(過去編)

「これは!」


 芽衣がドーム上空に戻ってきた時には、味方にかなりの損害が出ていた。


 バリケードの一部が壊れ、そこから帝国軍兵士が突入し、防御側と銃撃戦となっているのである。


「助けないと……」


 芽衣は、周囲を見回した。


 廃墟ビルの近くに、大きなコンクリート塊が落ちているのを見つける。


 芽衣は知らなかったが、先ほどの戦闘でビルの壁がはがれたものだ。


 芽衣は下へ降りてコンクリート塊を拾い上げると、バリケードに開いた破れ目の上に来た。


「えい」


 芽衣の投下したコンクリート塊はバリケードの破れ目に落ちて、バリケード内への進入路を塞いだ。


 今にも、そこを通ろうとしていた帝国軍兵士三名を巻き添えにして……


 バリケード内に取り残された帝国軍兵士達は退路を断たれ、狼狽えた。


 その兵士達のど真ん中に、芽衣は着陸する。


「うりゃあ! ブースト!」


 芽衣は帝国軍兵士を、次々とブーストパンチで吹っ飛ばしていく。


 敵兵も銃撃したり、刀で切りつけたりするがロボットスーツにそんな攻撃は通じない。


 それでも、後から後から帝国兵は芽衣に向かっていく。


 ふと、ドームの方に目を向けると、カルカ側の兵士が集まり、こっちへ銃を向けていた。


 帝国兵が自分の周辺に集まっている今、一斉射撃をすれば敵をほぼ掃討できる。


 しかし、カルカの兵士は一向に撃ってこない。


 芽衣は気が付いた。自分がいるから撃てないと……


 芽衣はスピーカーのスイッチを入れた。


「みなさん! 私のロボットスーツに、ライフル銃は通じません。私ごと撃って下さい」


 ようやく、カルカ兵は一斉射撃を開始。帝国兵は次々と銃撃に倒されていった。


 あらかた掃討し終えたとき、バリケード内は双方の死傷者が大量に転がっており、カルカ側では、戦える者は三十人ほどしか残っていなかった。


 芽衣は、指揮官の元に駆け寄る。 


「敵は私が食い止めます。今のうちに、怪我した人達をドームに収容して下さい」

「すまない」


 芽衣は、バリケードの外へ飛び出した。


 今にもバリケードに梯子をかけようとしていた兵士と鉢合わせになる。


「させません!」

 

 兵士から梯子を取り上げ、それを振り回した。


 近くにいた数人の兵士が、梯子に当たって吹っ飛ばされる。


 木製の梯子がボロボロになるまで、芽衣は振り回し続けた。


 数発の銃弾がロボットスーツに命中する。


 芽衣はボロボロになった梯子を投げ捨てて、ショットガンを手にした。


「死になさい! 消えなさい! くたばりなさい!」


 ショットガンの一連射で、十人ほどの兵士が肉塊となった。


 その時、芽衣は自分に向けられる強い殺気に気が付く。

 

「ジャンプ」


 芽衣が高々と飛び上がった後、今まで芽衣がいた地面に光球が着弾する。


「イナーシャルコントロール 0G」


 空中に静止して、周囲を見回した。


 程なくして、エラ・アレンスキーの姿を見つける。

 

「貴様。この前、私をコケにした女だな。今夜こそ、決着をつけてやる」

「エラ・アランスキーさん、その前にお聞きしたい事があるのですが」

「なんだ?」

「あなたは、コピー人間ですね?」

「いかにも。データを取られたのは十二歳の時だ」

「そのころに、日本の雑誌から取材を受けましたか?」

「ああ。『ウー』とかいう雑誌だったが」

「やはり。では『驚異の電気人間』という記事に乗っていた女の子は、あなただったのですね」

「ほう。お前もあの雑誌を見ていたか。それでサインでも欲しくなったか? なんなら、お前の墓に一緒に入れてやってもいいぞ」

「そんなものはいりません。お墓に入るのは、あなたですから」

「なに?」


 芽衣は、ショットガンをエラに向けて撃った。


 散弾がエラに向かうが、数メートル手前でプラズマ化してしまう。


「バカめ。無駄だというのが分からんのか」


 エラの放った光球が迫る。


 寸前で、光球を躱した芽衣は、地面から石ころを拾って投げつけた。


 石はエラの鎧に当たって跳ね返る。


「無駄の事を」

「エラ・アレンスキーさん。弾丸は防いだのに、なぜ石は防がないのです?」

「石ころぐらい、防ぐ必要もないからさ」

「いいえ。防がなかったのではない。防げなかったのでしょう! なぜなら、あなたの能力は、金属にしか効果がないからです」

「なに!」


 図星だったようだ。エラは顔に驚愕の色を浮かべた。

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