第207話 取り逃がした

 トレーラー内の機械を調べたが、遠隔操作されていた形跡はない。


 というか、飲みかけのコーヒーカップがあるし、さっきまでここに人がいた形跡はある。


 いや、逃げたと見せかけて、まだ中に隠れているかもしれない。


 赤外線センサーで探ってみた。


 機器以外の熱源は見当たらない。


「よいしょっと」

 

 念のため、外へ出てトレーラーをひっくり返してみた。


 トレーラーの下にもいなかった。


 やはり逃げたか。


「お兄ちゃん」


 ミクが傍らに降りてきた。


「あいつは?」

「逃げた後だった。まだ、近くにいると思うが……」


 砂漠を見たが、わだちも残っていない。


 どうやって逃げたんだ?


「これ以上ここにいても仕方ない。引き返そう」

「うん」


 ミクのオボロは、ふわりと飛び上がった。


 しかし、どういう仕組みで飛んでいるのだろう?


 やはり、反重力? まあ、その詮索は後にして……


「ミク。オボロが消えた時、何があったんだ?」


 ロボットスーツをオボロのすぐ近くまで寄せて直接声をかけてみた。


 声が届かなかったら、通信機に切り替えようかと思ったが、ミクが僕の方を振り向いたところを見ると声は聞こえたようだ。


「あたしも、良く覚えていないの。オボロが消えちゃって、空中に放り出された時、あたし気を失っちゃって気が付いたらカルカシェルターの中で、芽衣ちゃんに看病してもらっていたの」


 ミクの声もはっきり聞こえた。バイザーを開いてみると風がない。どうやら、オボロの近辺は無風状態の様だ。あの不可視の壁の影響だろうか?


 まあ、なんにせよ飛行中に通信機を使わないで、普通に会話をできるというのはありがたい。


「芽衣ちゃんが、受け止めたと言っていたけど……」

「そう。芽衣ちゃんが助けてくれたそうなんだけど、覚えてなくて。ナーモ族のお医者さんは、急激な魔力切れのせいで意識を失ったと言っていたよ」


 貧血みたいなものかな?


「なぜ、僕らと連絡しなかった?」

「できなかったの。オボロが消えた時に、あたしの通信機は落としちゃったし。カルカシェルターは、昨日の夜から攻撃を受けていて……その時に通信用のアンテナを壊されたちゃって……」

「ドームの外に、帝国兵の死体が転がっていたのはその時の戦闘か?」

「うん。ほとんど、芽衣ちゃんがやったんだって」

「芽衣ちゃんは、エラとは戦わなかったのか?」

「戦ったって……だけど、勝負にならなかったの。芽衣ちゃんのロボットスーツは空を飛べるし、エラは銃が効かないし……そうだ! 肝心の事を……いたのよ!」

「何が?」

「天竜の人達。カルカシェルターに中にいたのよ」

「本当か?」

「うん。あたしもまだ、会っていないけど……あたしがその話を聞いた時には、カルカシェルターでも、お兄ちゃん達が近くに来ているって分かって、ドローンを偵察に出していたの。そしたら、お兄ちゃんが……エラから……ひどい事をされていて……」


 見られていたのか。


「みっともないところを見られちゃったな。はは……」

「笑いごとじゃないよ! あたしだって、凄く心配したんだからね!」

「ゴメン!」


 心配をかけたのはお互い様だったね。


「あたしだけじゃないよ。芽衣ちゃんも、あれを見て涙流していたんだから……」


 後で、みんなに謝っておかないと……

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