第200話 桜色のロボットスーツ
声の方に目を向けると、桜色のロボットスーツがこっちへ走ってくるところだった。
ロボットスーツは、何か大きな荷物を持っている。
僕の近くに、その荷物を置いた。
これは!? ロボットスーツの着脱装置。それに外部電源?
荷物を降ろしたロボットスーツは、ナイフを手にしていた。
「北村さん。今お助けします」
ロボットスーツは手にしていたナイフで、僕を縛っていたロープを切ってくれた。
「ありがとう。君は……」
「私です」
ロボットスーツのバイザーが開いた。中から現れたのは、大きなメガネをかけた若い女の子。
「芽衣ちゃん!」
「私のこと、ご存じでしたよね? ミクちゃんから、聞きましたけど……」
「ミクから! ミクと、どこで会ったの?」
「あ! 言い忘れました。さっき、北村さんのドローンが敵と交戦していたとき、私も助けに行こうと飛び出したのです。でも、私のロボットスーツ、かなりガタが来ちゃっていて……通信機も、送信機能がダメになっていて、北村さんと連絡が取れなくて……」
それじゃあ、あの飛行体は芽衣ちゃんのロボットスーツだったのか!?
「でも、受信だけは出来たのです。だから北村さんの通信を傍受していたのですが、そしたらミクちゃんが危ないって分かって、急いで向かったのです。間一髪でミクちゃんを受け止めたのですが、無理をし過ぎたせいか慣性制御装置の調子が悪くなって、仕方なく基地へ引き返したのです」
「それじゃあ、君がミクを助けてくれたのか?」
「すみません。北村さんが心配しているって分かっていたのに、連絡もできなくて」
「いや、良いんだ。君のおかげでミクが助かった。ありがとう」
「そんな、お礼を言われるような事なんて……」
「お兄ちゃん!」「カイトさん!」「ご主人様」
ミールとPちゃん、そしてミクが僕の方に駆けてきた。
「カイトさん、あたし達の友情の勝利です」
ミール……ありがとう……君がいなかったら、僕は絶望していたかもしれない。
「ご主人様、遅くなって申し訳ありません。ダモン様の手術に時間がかかりました。ダモン様でしたら、大丈夫です。今、キラさんが見てくれています」
Pちゃん、治療を優先しろと言ったのは僕なのだから、謝る事ないのに……
「お兄ちゃん、やったよ。あのオバン、ボッコボッコしてやって、埋めてやった」
だがら女の子が、そういう物騒な事を……
ミクが僕の眼前に駆け寄ってくる。思わず僕は、ミクを抱きしめていた。
「え? お兄ちゃん、どうしたの? もしかして、ミールちゃんから、あたしに乗り換えるの?」
「バカ! そんなんじゃない」
「お兄ちゃん、どうしたの? 涙なんか流して。どっか痛いの?」
「違う」
ミールがミクの肩をポンポンと叩いた。ミクはミールの方を向く。
「ミールちゃん。どうしたの?」
「カイトさんは、ミクちゃんを女として抱いているのではありません。小動物を可愛がるような気持ちで抱いているのです」
「なによ! 小動物って!」
「カイトさんは、ミクちゃんが死んだと思って、凄く泣いたのですよ」
「え! そうだったの! ごめん! お兄ちゃん、心配させて」
「いいんだよ。生きて帰って来てくれたのだから……」
そこで、僕はミクを離した。
「もう、心配かけないでくれよ」
「うん、ごめんね。お兄ちゃん」
そこへ芽衣ちゃんがミクの肩をポンと叩いた。
「なに? 芽衣ちゃん」
「ミクちゃん、今言った事はどういう事ですか? 北村さんが、誰からミクちゃんに乗り換えるって……」
「それはミールちゃん……あ!」
ミクは『しまった』て、顔をした。
「ミールちゃん? 誰ですか?」
「あたしですけど、何か?」
芽衣ちゃんがミールの方を向く。
「ナーモ族の女の子? どういう事です? P0371」
Pちゃんが、芽衣ちゃんの前に来て頭を下げた。
「申し訳ありません。芽衣様。私の力不足でした」
芽衣様? そうか、Pちゃんにとって芽衣ちゃんは親のようなものだからな。
それからPちゃんは、塩湖に降りてから今までの経緯を芽衣ちゃんに説明した。
聞き終わった芽衣ちゃんは、疲れたように溜息をつく。
「本当に申し訳ありません。芽衣様」
「もう、いいですよ。P0371」
「いいのですか? 芽衣様」
「あんなプログラムを、あなたに入れたのが間違えでした。生データから作られた北村さんが、誰と付き合うかなんて、私が強制していい事ではなかったのです。北村さんが、ナーモ族の女の子を選んだのなら仕方ありません。私には、それを止める権利はないのです。でも……」
芽衣ちゃんは僕の方を振り向いた。
「北村さん。一度、香子さんと会って下さい。恋人ではなく、幼馴染としてでもいいです」
「もちろん、僕は香子とは会うつもりだよ」
でないと、このモヤモヤした気持ちが治まらない。
「ぜひ、お願いします。そうすれば、香子さんも少しは元気になってくれるかも」
そんなにひどいのか?
「あ! それとP0371。私に『様』を付けるのはやめてください。私の事は『芽衣さん』でいいです」
「どうしてですか? 芽衣様」
「様をつけないで! AIに自分を『様付け』で呼ばせて喜んでいる痛い女の子と、北村さんに思われちゃうじゃないですか!」
いや、思ってないから……ていうか、Pちゃんにずっと『ご主人様』と呼ばせていた僕も、痛い奴と思われていないだろうか?
その時、Pちゃんのアンテナが激しく動いた。
「ご主人様、芽衣様、ドローンの大群がこっちへ向っています」
矢納さんのドローンだな。
「様を付けないでえ!」
いや、芽衣ちゃん。今はそれどころじゃないって……
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