第183話 呉越同舟
正直、別に連絡することなどない。ただ、このドローンはエラ・アレンスキーの能力を見極めるために出したので、それ以外の者から攻撃されたくなかったのだ。
帝国軍のフリントロック銃なら高度をとってしまえばいいが、矢納課長ら裏切り四天王(笑)が出てくると困る。だから、裏切り四天王が攻撃を躊躇しそうな事を垂れ幕に書いてみたのだ。
暫くして、帝国兵とは服装の違う日本人の女が出てきた。
その横に、エラ・アランスキーがいる。
エラがドローンに向かって両手を伸ばす。
掌で電光が輝く。
来るか! プラズマボール!
「Pちゃん。データーを取り逃さないように……」
「了解です」
ん? 視線を映像に戻すと、エラの電光が消えていた。
成瀬真須美と何か話している。
どうやらエラに『ちょっと待って』と言っているみたいだ。
ちちい! 裏目に出たか。
あのまま エラに攻撃させてくれるとデータが取れたのに……
成瀬真須美は、通信機を取り出して操作した。
せっかくだから、彼女に聞いてみたかった事を聞いてみよう。
『そのドローンを、飛ばしているのは北村君かしら?』
「そうです。あなたが成瀬真須美さんですか?」
『そうよ。あなたは生データから作られたから知らないけど、私は前のあなたとは、友達だったのよ』
「それで……その……僕にふられたとか言っている人がいるけど……嘘ですね?」
『ああ、それは事実よ』
マジで!?
「それで、僕を恨んでいるとか?」
だが、成瀬真須美はそれを聞いて笑い出した。
『そんな事ないって。第一、その時は君を罠にかけて洗脳するつもりだったし、君の事を本気で好きだったわけじゃないから』
「そう……でしたか」
「カイトさん。残念でしたね」
うわわ! ミールが僕を見る目が怖い。
『後ろで聞こえた女の子の声は、ミールちゃんかしら?』
「よく御存じで」
『カルルから聞いているわ。だとすると、結局カルルの思惑通りになってしまったのかな?』
「え?」
『私が前の北村君を誘惑したのは、洗脳が目的だったけど、その他にカルルに頼まれたからというのもあるのよ。香子ちゃんと君の婚約を、ぶち壊してほしいって』
「な!?」
『正直、そんな茶番に付き合わされるなんて、たまったもんじゃなかったけどね。断ってくれて、本当に助かったわ』
「しかし、嫌なら断ればよかったのでは?」
『私が上から命令されていたのは、君を洗脳して味方にする事。方法が気に入らないからと言って、逆らえないのよ』
「そうでしたか」
『それで、用は何かしら?』
ついでだから、ミーチャの事について相談してみるか。敵だけど、この人はミーチャに優しくしていたみたいだし……
「そっちに、日本語の分かる人は、あなた以外にいますか?」
『という事は、あたし以外の奴には聞かせたくないという事ね』
「そうです」
『いないわ。帝国人は日本語分からないし、矢納も矢部も古渕も今はここにはいない』
「僕達は、これからあなた達と戦う事になります」
『宣誓でもしようというの? 国際法に則り正々堂々と戦いますとか?』
どっかの幼女じゃあるまいし……
「いえ。戦う前に、聞いておきたい事がありまして。こちらでミーチャ・アリエフという少年兵を、預かっています。その事で、お話が……」
『あちゃー! さっきから、姿が見えないと思ったら』
「そっちに帰すと、また虐待されるので、どこの帝国軍に引き渡すのが安全かと……」
『困ったわね。そんな部隊が、近くにいたら苦労しないわよ』
「となると、リトル東京に亡命させるしかないですね。それなら戦闘で、あなた達を撃ち破って連れて行きます。それでは、後ほど」
『待って。提案があるわ』
「なんでしょう?」
『私達、手を組まない?』
「手を組むって? 僕ら敵同士ですよ」
『共通の敵を倒すために、一時的に手を組むと言うのよ』
「共通の敵」
『私は帝国軍に協力しているけど、こちらの味方に、どうしても排除したい奴が二人いるのよ。戦闘中に戦死してくれると有り難いのだけど、君の手で殺してくれると助かるわ。それまでは、私と北村君は手を組むという事でどうかしら?』
「排除した後は?」
『敵同士に戻るだけ。仲良く喧嘩しましょう』
「トムとジェリーじゃないから……で、その二人とは?」
『一人はエラ・アレンスキー。この狂人がいなければ、ミーチャは安心して戻ってこられるわ』
「なるほど。後一人は?」
『矢納よ。私としては、君を洗脳して味方に引き入れたいと思っているのだけど……』
それは、御免こうむる。
『でも、矢納のバカだけは、つまらない復讐心に捕らわれて、君をどうしてもぶっ殺したいそうよ。北村君としても、悪い話じゃないと思うけど。こいつをぶっ殺したいでしょ?』
「復讐のためではなく。身の安全のためにというなら殺したいと思っています」
『じゃあ、決まりね。二人を片付けるまで、私は内側から君をサポートするわ。うまく行ったら、ミーチャの身柄はこっちで引き受けるという事で』
「いいでしょう。では、手始めにやってもらいたい事があります」
そして、最初の予定通り、エラがこのドローンを攻撃するように促すことを頼んだ。
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