第184話 雷魔法対策

 キラはマイクを握っていた。顔は緊張している。


 無理もないな。


「キラ。無理だと思うなら、やらなくて良いわよ」

「いえ、師匠。やります。やらせて下さい。あいつに言ってやりたい事が山ほどあるので」


 映像の中で、成瀬真須美がエラに何かを話しかけ通信機を渡した。


 そして、こっちを……つまりドローンを指差す。


 エラは、通信機に口に当てる。


『私に何か用か?』


 スピーカーからエラの声。


「エラ・アレンスキー。私が、誰だか分かるか?」

『誰だ?』

「私だ。キラ・ガルキナだ」

『キラ・ガルキナだと? なぜ、さっきは逃げた?』

「さっき、お前が見たのは私の分身だ。そんなものも目抜けないで、良く天才魔法使いなどと嘯けるな!」

『なんだと……キラ・ガルキナ。さっきからその口の聞き方は何だ!? それが指導教官に対する態度か!』

「指導教官だと? 笑わせるな! おまえには、指導教官として崇める価値など微塵にもない。お前の教えの中で、分身魔法の制御に役に立つことなど一つもなかったぞ」

『なにい……現にお前、さっき分身をコントロールしていたではないか』

「あれはナーモ族の、カ・モ・ミール師匠から教えを頂いたからだ。おまえの功績など、砂粒ほどもない」

『ナーモ族だと? おまえ……』

「言っておくが、ナーモ族に弟子入りすることは、ネクラーソフ将軍の許可を得ている」

『だが、カ・モ・ミールと言えば、日本人と協力している魔法使いだろ?』

「いかにも。だが、私は帝国軍との戦いには一切関与していない。それでも、裏切り者扱いされる事を覚悟の上で、こうしてお前に話しかけたのは、なぜだと思う?」

『なぜだ?』

「分身魔法を使いこなすようになった私の姿を見たお前が、『キラ・ガルキナは私が育てた』などとドヤ顔をするのが、どうしても我慢できなかったからだ。お前が私に教えた事は、何の役にも立たない無駄知識ばかり。私が分身を制御できたのは、おまえの功績などではない。お前は、役に立たない事を人に教えて、軍から金をもらっている。給料泥棒だ!」

『黙れ、小娘!』

「小娘で悪かったな。ババア!」


 これこれ、女の子がそんな汚い言葉を使ってはいけない……


『なにを!』

「この年増! 売れ残り! 彼氏いない歴=年齢! サディスト! 変態! ヒステリー持ち! ○○○! ×××! ***!」


 いかん! 挑発してプラズマボールを撃たせるためとは言え、キラのセリフが伏せ字だらけに……

 

 しかし、キラもそうとうストレス貯めこんでいたな。


『ぐぬぬ……言わせておけば』


 エラは通信機を投げ捨て、両手をこっちへ向けた。


 掌に電光が走る。


「来るぞ! プラズマボール!」


『ちょっと、アレンスキーさん! 投げ捨てないでよ。通信機が、また壊れるでしょ』


 エラの捨てた通信機は、成瀬真須美が拾っていた。


『それじゃあ北村君。巻き添え食らいたくないから、私は避難するわね。後はよろしく』 


 成瀬真須美は逃げ出した。


 他の兵士たちも、我先にとエラの周囲から離れる。


 エラの両手の先に光の玉が生じた。


 プラズマボールだ。


 プラズマボールがこっちへ向ってくる。


 しかし、思ったほどスピードは無いな。


「バラスト投下」


 ドローンから、バラストにしていた袋が投下される。


 この袋には、強力な電磁石が入っているのだ。


 バラストが近くを通った途端、プラズマボールの軌道が大きくずれた。


 磁石の影響はあると思っていたけど、まさかここまでとは……


「ご主人様。プラズマボール第二弾来ます」

「バラスト投下」


 今度は、バラストにプラズマボールが直撃。バラストに着けていたセンサーのおかげで、プラズマボールの表面温度が判明。

 

「一万度!?」

「ご主人様。表面温度は高いですが、プラズマの密度は凄く薄いです。熱量は、たいしたことありません」

「とは言っても一万度だよ! 炭素やタングステンの融点が、四千度ぐらいだったっけ? それより遥かに高いじゃん!」

「ゼッ○ンと比べれば、たいした事ありません」

「比べる対象が、強すぎるだろ!」


 光の国の戦士すら倒すようなバケモノと一緒にすな! 


 んな事言ってる間に第三弾が来た。


 今度はドローンを直撃。


 画面がブラックアウトする。


 だが、その前にドローンはかなりのデータを送ってくれた。


 このデータはこれから分析するとして、他にもいくつか分かった事がある。


 プラズマボールの速度は、それほど速くない。


 一度、発射したプラズマボールの軌道を、術者は途中で制御できない。


 プラズマボールは磁力に引き寄せられる。


 これらの弱点を利用して、エラ・アレンスキー攻略方を練る事にしよう。




☆     ☆     ☆     ☆     ☆


ちなみにゼッ○ンのプラズマボールは一兆度です。

光の国の戦士も、さぞかし熱かったでしょうね。

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