第98話 ドッグファイト
「ご主人様。そのミサイルは……」
「分かっている」
今、撃ったのは、空対地ミサイル。空対空ミサイルではない。
これでは、空飛ぶドローンには当たらない。
しかし、カルルもすぐには、それが分からないはずだ。
回避運動ぐらいは、するだろう。
今のところ、向こうのドローンは二機。
雲の中にいるので、レーダーで捉えた光点が見えるだけで姿が分からない。
しかし、ミサイルを回避する動きを見れば、相手がどんなドローンを使っているか推測できる。
二機のドローンのうち一機は、ほとんど回避運動をしていない。
いや、していないわけではないが、かなり動きが鈍い。
飛行船タイプのようだ。
もう一機は、かなりの機動性を持っている。
こっちは、ジェットドローンだな。
「Pちゃん。一号機の発進準備は?」
「発進準備できてはいますが、装備しているのが空対地ミサイルです」
「それでいい。発進させて」
「お待ちください。今、空対空ミサイルに交換しますので」
「そんな南雲艦隊みたいな事している場合か」
「しかし、空対地ミサイルではドローンを落とせません」
「落とせなくてもいい。空対地ミサイルでも戦い方はある。それより、そろそろ二号機が戻ってくるから、空対空ミサイルはそっちに着けて」
「了解です」
カルルの方も、ミサイルを撃ってきた。同時に通信が入る。
『海斗。さてはそのドローン、空対空ミサイルを積んでいないな』
「さて、どうかな?」
『とぼけるな。今、撃ち落としてやるぜ』
ミサイルが迫ってくる。
リフトファン全開、垂直上昇。
ミサイルは三号機の真下を虚しく通り過ぎる。
『うまく避けたな。次はそうはいかんぞ』
また、ミサイルを撃ってきた。こっちも撃ち返す。
『バカが。空対地ミサイルが当たるとでも思っているのか』
「それは、どうかな」
『なに?』
ミサイルとミサイルがすれ違った直後、カルルのミサイルが爆発した。
こっちのミサイルが至近距離を通ったために、相手のミサイルのVТ信管を作動させてしまったのだ。
以前にキラが使った戦法だ。
もっとも、あれは偶然だったと思うけど……
「ご主人様。一号機、戦闘宙域に到着しました」
三号機を自動操縦に切り替えて、一号機を手動にした。
カルルのドローンが高度を下げて、雲の下に出てくる。
やはりジェットドローンだったか……
まだ、ミサイルを二発残している。
一発撃ってきた。
こっちも同時に撃つ。
またも、すれ違うと同時に爆発。
『カイトさん!』
突然、通信機からミールの声。
「どうした?」
『ドローンの騒音、なんとかなりませんか? ベジドラゴンたちが怯えてしまって、飛び立てません』
そんなヒドイ音なのか?
「ミール。すまないが、敵もドローンを上げてきた。奴を片付けるまで待ってくれ」
『分かりました。ご武運をお祈りします』
通信が切れた時、カルルは最後のミサイルを撃ってきた。
こっちもミサイル発射。
すれ違う。
爆発しない?
さてはVТ信管を切ったな。
だが、VТ信管がないと直撃しない限り、ダメージはない。
そして、ミサイルが直撃するなどという事は滅多にない。
ミサイルは菊花一号の近くを素通りしていった。
『これで互いのミサイルはなくなったな』
カルルが通信を送ってきた。
『ドックファイトで勝負だ』
敵のドローンが急速接近。
こっちも、ドローンを加速させる。
すれ違い様に、互いのバルカンを撃ちあう。
こっちはノーダメージ。
向こうに数発命中したが、致命傷は与えられなかったようだ。
互いに反転してもう一度勝負を挑む。
相手の機体の背後を取ろうして二機のドローンは乱れ飛ぶ。
背後を取られた!
リフトファン全開垂直上昇で逃げるか?
いや、相手もVТOL。垂直上昇で追いかけてくる。
ならば……
機首を大きく上げた。
直後、高度が一気に下がる。
わざと失速して高度を下げる木の葉落としだ。
塩湖での戦いの後、散々練習した高等テクニック。
失速状態から、回復させるのが難しかったがなんとか回復させた。
僕の前方をカルルのドローンが通り過ぎる。
バルカン発射。
命中したが今回も致命傷には至らなかった。
だが、動きが鈍っている。
トドメだ。
突然、警報が鳴った。
レーダーには、こっちへ向うミサイル。
しまった! 雲の中に飛行船タイプがいたんだった。
ミサイルは、至近距離で爆発した。
爆風と破片を浴びて、菊花一号は大破。
辛うじて墜落は免れたものの、城の屋上に不時着した。
カルルからの通信が入る。
『まんまと引っかかったな。VТ信管を切ったミサイルを撃ったのは、まぐれ当たりを期待したわけではない。ミサイルを撃ち尽くして、お前をドックファイトに引きずり込むのが、目的だったのさ』
ああ、そうだったの。
『もちろん、お前の射撃の腕は知っているからな。ドックファイトなら勝てるなんて、自惚れてはいない。ドックファイトに専念させて、もう一機のドローンの事を忘れさせるのが目的だったのさ』
こいつ、自分の作戦を自慢したいんだな。
酒場で延々と自慢話をするタイプか?
不時着なんかしないで、墜落させておけばよかった。
そうすれば、こいつの自慢話など聞かないで済んだのに……
『どうだ、悔しいか!? 悔しいだろう』
ガキか? こいつは……
「別に悔しくないよ。見事な作戦だと、感心しているところさ」
『なんだ! その上から目線な言い方は! 本当は悔しいのだろ! 悔しいと言え! この卑怯者と言ってみろ! 言っておくが戦いには、卑怯もへったくれもないんだからな』
つくづく、こんな男の話に乗らなくてよかった。
「別に、卑怯なんて言ってないけど」
『言ってないけど、思っていたんだろう!?』
「思ってないって」
「ご主人様。二号機、戦闘宙域に到着しました」
「ありがとう。Pちゃん」
操縦系を二号機に切り替えて……
『北村海斗! おまえドローンを何機用意しているんだ!?』
「三機のドローンを、ローテーションして使っているのだが何か?」
『こっちは一機しかないのに、三対一とは卑怯だぞ』
「いや、おまえ、たった今、戦いに卑怯もへったくれもないって言ったばかりやん」
『俺は良いんだ』
「良いわけあるか!」
『ふん。どうせ、そいつも空対地ミサイルしか積んでいないのだろ。そんなもの当たるものか』
いや、今度は正真正銘の赤外線追尾式空対空ミサイルなんだけど……
『全部躱してやるから、とっとと撃ってこい』
「では、遠慮なく」
ポチッとな。
ミサイルが勢いよく飛び出していく。
『あははは! そんな物当たるものか!』
当たった。
カルルのドローンは爆炎に包まれ落ちていく。
さて、後は飛行船タイプを片付ければ終わりだな。
その前に……
「ミール」
ミールに通信を送った。
「敵のドローンは片付けた。もうすぐ、こっちのドローンも降ろすから、脱出の用意してて」
『待ってください。カイトさん。着替えるのを忘れてました』
「着替え? こんな時に……」
『帝国兵に変装したままだったのですよ。このままだと、鎧が重くてベジドラゴンが飛べません』
「そうか。早くして」
『それが鎧が引っかかってなかなか、とにかく急ぎます』
ミールとの通信が切れた。
直後にカルルから通信がくる。
『やい! 北村海斗!』
今度は飛行船タイプから通信を送ってきたようだ。
しつこいな。
『まさか、これで勝ったとは、思っていないだろうな?』
負け惜しみか?
「まさか、これで負けていないとは、思っていないだろうな?」
『ふん。お前は大きな勘違いをしているぞ。ドローン同士の戦いなんてものはな、ドローンの操縦者を倒せば勝ちなんだよ』
「なに!?」
『俺は、最初からお前の居場所を掴んでいた。ドローンでじゃれあっている間に、俺はお前に近づいていたんだよ。今から、そっちへ行くから首を洗って待っていろ』
なぜ、ここが分かったんだ?
いや、ローテク帝国軍と違って奴ならレーダーぐらい持っている。
ドローンの動きで、ここを突き止められたか?
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