第7話 ベジドラゴン

「で、その後で、僕のオリジナルはどうなったの?」


 どうせ、ろくな死に方してないだろうな。


「ロボットスーツが自衛隊に採用された後は、自衛隊に指導員として出向しています。その後、戦争に巻き込まれたりもしましたが、無事に生還して幸せな余生を過ごしました」

「戦争!? あの後、戦争があったのか?」

「はい。モニターを受けた時間から換算して一年後に……」


どこと戦争になったかだ? 気になるけれど、歴史の話は後にしよう。今はそれどころではなさそうだ。


 僕は、周囲を見回した。


 緑色の鱗に覆われた翼竜たちが、塩を舐めている。


 アフリカ象ほどもある大きな個体が二頭、馬ぐらい大きさのが四頭。


 また、六頭降りてきた。


 やはり大きい翼竜が二頭いて、四頭の小さい翼竜を率いている。


 大きい二体は親で、小さいのは子共かな?


 四頭の子供のうち、一頭は大型犬ほどしかないチビ翼竜だ。赤ん坊なのだろうか?


 先にいた群れが、塩舐めをやめて塩の平原を走り始めた。


 身体が大きいから、助走をつけないと飛び立てないようだ。


 ようやく飛び立った翼竜は、何処かへと飛び去って行く。


「あいつら、危険はないのか?」


 さっきから、あいつらがこっちへ襲ってくるのではないかと気になっていた。


 今のところ、塩を舐めては飛び去って行くだけで、僕に関心はないようだ。


「ここにいる翼竜は、ベジドラゴンと言って草食です。危険はありません」


 そうか、草食だったのか。


 僕はジャケットの内ポケットから、スマホを取り出した。


 あれ? スマホがなんであるんだ? そう言えば、あまり深く考えていなかったが、僕の服装、モニターを受けに行ったときのままだ。服もスマホも一緒にコピーされてしまったんだな。


 画面を見ると、やはりアンテナは立っていない。


 まあ、当然だな。ここは系外惑星なんだ。


 とりあえず、記念写真。


 こんな珍しい動物を、撮らない手はない。


 こんなのが地球にいたら、NHKの『ダーウィンが来た』が取材に来るだろな。


 それにしても、塩の平原はこれだけ広いのに、なんで僕の周囲にばかり降りてくるんだろ?


「なあ、Pちゃん。この惑星には僕の他にも地球人はいるのかい?」

「そりゃあいますよ。もちろん、御主人様と同じコピー人間ですが」

「地球人と、ベジドラゴンの関係はどうなっているんだい?」

「質問の意味が分かりません」

「つまりだな……地球人の畑を、荒らすとかはしないの?」

「そういう事はありません。ベジドラゴンは、この惑星固有の植物だけを食べています。ただ、地球人が、果物を与えたという記録があります」

「それなら、地球の果物の味を覚えてしまったんだろ。果樹園とか、荒らしたりしないの?」

「ベジドラゴンは大変知能が高く、人語を解する個体もいます。よって、人間との無用な争いを避けるため、そのような行動はしません」 

「そっか。じゃあ、地球人の居住地付近に、ベジドラゴンが棲みついたりすることはあるかい?」

「あります。地球人だけでなく、この惑星の原住民の里の近くにも棲みつきます」


 やっぱり、そういう事か。


 雀とか、タヌキは人里に近いところに棲みつく。


 その方が食べ物も手に入りやすいし、天敵は人間が追っ払ってくれて安全だ。


 このベジドラゴン達は、ここに僕がいるから降りてきたんだ。


 人間がいれば、天敵を追い払ってもらえ……天敵?


「こいつらに、天敵とかいるの?」


 考えれば草食動物なんだから、それを食う肉食動物がいたっておかしくない。


「はい、肉食のレッドドラゴンは、ベジドラゴンを主食としています」


 主食にされていたのか。なんか、可哀そう。


 ひょっとして、エビのような味でもするのだろうか?


「それと気を付けてください。レッドドラゴンは、人間を襲う事もあります」


 襲うのか? 僕なんか食っても、美味くないぞ。


「そのレッドドラゴンとやらに、ピストルやショットガンは通じるの?」

「まったく効果がないという事はありませんが、あまりお勧めできません。身体中が硬い鱗に覆われていて、ショットガン程度では、傷を負わせる事はできても、致命傷は無理です。確実に倒すとなったら、バズーカ砲ぐらいの火器が必要ですね」

「そうか」


 いや、いなくてよかった。


「ピー!!」


 かん高い鳴き声が聞こえた。


「なんだ?」


 チビ翼竜が、猛然とこっちへ駆けてくる。


 他の翼竜達も、翼をバタバタさせながら走り回っていた。


 何を、慌てているんだ?


 ん?


 何かが、日の光を遮った。


 上を見上げる。


「なあPちゃん。そのレッドドラゴンて、どんな姿をしているんだ?」


 Pちゃんは、上空を指さした。


「ちょうど、あんな姿をしています」


 やっぱしぃ!


「キシャー!!」


 上空を飛んでいた赤銅色をした巨大な翼竜が、奇声をあげて急降下して来た。

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