第6話 ロボットスーツ
「シャトルの装備って、どんなものがあるんだ?」
「十日分の非常食。水。自動車、武器、その他雑貨類」
「自動車があるのか?」
なら、奴を探しに行くことはできるな。しかし……
「ガソリンを、どこで手に入れるんだ?」
この惑星に、ガソリンスタンドがあるとは思えないのだが……
「ガソリンは必要ありません。太陽電池付の燃料電池車です。太陽と水があれば、どこまでも行けます」
「便利だね。しかし、それは僕に使いこなせるのかな?」
「運転方法は、ガソリン車と変わりません」
御都合主義だな。
二百年の間に、いろんな乗り物が開発されたはず。
そのほとんどは、僕の手に負えないと思う。
とにかく、どんな車か見せてもらう事にした。
シャトルのカーゴから出てきたのは、ワゴンRのような車種。
屋根には折り畳み式の太陽電池があり、太陽電池で発電した電気で水を分解して、発生した水素をタンクに蓄えておいて、燃料電池で使うというシステムだそうだ。
一回の充電で、三百キロは移動できる。ただしフル充電に二日かかる。
つまり三百キロ走ったら二日休まなきゃならないわけだ。
なんかの歌みたいだな。
まあ、急ぎの旅でないなら問題ないわけだが……
次に武器を見せてもらった。
平和な日本では、あまり必要のないものだったが、ここは何が出てくるかわからない世界だ。
武器はやはり必要。どんなものがあるか、チェックしておかないと。
二百年も経っているなら、レーザーガンとか荷電粒子砲とか
そんなものを、いきなり渡されても使い方が分からない。
今のうちに、使い方を覚えておくに越した事はない。
「お待たせしました」
Pちゃんは、僕の目の前に武器を置いた。
「……」
なんだ? これは……
「おい。今が二百年後というのは嘘か?」
「とんでもない。ロボットは嘘をつきません」
僕は目の前の武器を指差した。
「じゃあ、これは何だ?」
「あれ? ご存じだと思ったんですが。拳銃とショットガンです」
「んな事は分かってる」
拳銃は父さんが集めていたモデルガンをいじっていたので使い方はわかるし、実際にハワイの射撃場で撃った事あるので問題はない。
ショットガンも、クレー射撃で使っていたものと同じ銃だから使い方はわかる。
しかし…… 「おい、Pちゃん。二百年も経ってるなら、もっと凄い武器があるはずだろ」
「未来の武器を出しても、使えなければ意味ないじゃないですか。これは、実際にご主人様が使ったことのある物を、プリンターで作ったのです」
「じゃあ、僕だけじゃなく、この武器も車もすべてプリンターで作ったのか?」
「はい。今の時代はプリンターで作るのが当たり前ですから」
なるほど。僕に使える物ばかり出てきたのは、ご都合主義でもなんでもなかったわけか。
マルチスキャナーが発明されたのは僕の……というより、僕のオリジナルである北村海斗が生きていた時代。それ以降に開発された工業製品は、すべてスキャナーで読み込んだ三次元データが保存されていた。だから、そのデータの中から僕の使える物をチョイスしてプリントアウトしていたわけだ。
しかし、なんか騙されているような気がする。
「もっと、強力な武器はないの?」
「ありますよ」
Pちゃんが、次にシャトルの中から出してきたのは、奇妙なリクライニングシートだった。
「マッサージ機なんかで、どうするんだ?」
「マッサージ機ではありません。この中に武器がはいっています」
「椅子の中に?」
「これに座って『装着』と言ってください」
言われた通り座ってみた。
「装着」
なんだ!?
椅子のあちこちで蓋が開いた。
何かが、僕の腕や足に巻き付いてくる。
こ……これは……
この装備を僕は知っていた。
できれば、知らないでいたかった。
「これは200年前に、陸上自衛隊で正式採用された装備です。開発中のプロトタイプは、K工科大学在学中の北村海斗さんが、テストパイロットをやったと記録にあります」
「ああ……確かやった」
今でも、『使え』と言われたら使いこなす自信はある。
ロボットスーツ。
僕が大学在学中に、単位と引き換えに人体実験に近いテストパイロットをやらされた機械だ。
人間の手足の動きに合わせて動く人工筋肉によって、本来の力の数十倍の力を発揮したり、高速で走ったり、数十メートルの高さまでジャンプしたりできるわけだが、こいつが無理な動きをしたせいで、なんど関節が外れそうになったことか。
実際に脱臼したこともあった。
途中でバッテリーが無くなり、身動き一つできなくなる事もざらにあった。
それより酷いのは、バッテリーが爆発して大火傷したこと。
「この変な椅子は、僕の時になかったけど」
「変な椅子ではありません。自動着脱装置です」
「なんで、こんな物作ったの?」
「ご主人様のオリジナルが、これを装着するのに、いつも三十分かかっていたからです」
そういえば、そうだった。
本当は五分もあれば装着できたのだが、あの時はテストが嫌で、遅らせようとして、わざと時間をかけていたんだ。まさか、そのせいでこんな物を開発するとは……
「そんなに時間がかかっていては、実戦で役に立ちません。そこで、これを開発しました。これなら三十秒で装着も脱着もできます。さらに、この装置に収納している間は、自動的にメンテナンスもできるようになっています」
僕はもう一度シートに座った。
「脱着」
ロボットスーツは、僕の身体から離れてシートの中に戻っていく。
「これだけは絶対に嫌だ」
きっぱり言った。
言い切った。
「どうして嫌なんですか? 使っていたのでしょ」
「使っていたんじゃなくて、使わされていたんだ。そのせいで何度死にかけた事か」
「大丈夫ですよ。これはプロトタイプと違って安全ですから」
「なぜ、そう言い切れる?」
「プロトタイプをテストしてくれた、テストパイロットさん達の犠牲のおかげで、問題点が全て洗い出されました。自衛隊に正式採用された時には、すっかり安全になっていましたよ」
その犠牲になったテストパイロットの一人は、僕なんだが……
「バッテリーもプロトタイプは三分しか持ちませんでしたが、これは内臓電源だけで、なんと五分も持ちます」
ウルトラマンが、エヴァンゲリオンになっただけかよ!!
「それに、外部電源装着したら三時間は持ちますよ」
「電源が爆発した事もあったが、そこは改良したのか?」
「ええ。プロトタイプはリチウムイオンバッテリーでしたが、これは超電導バッテリーを使っています。簡単には爆発しません」
「簡単には? 簡単じゃなければ、爆発するようにも聞こえるけど?」
「そりゃあ、大電力をため込んでいるときに、超伝導物質がクエンチするような事があったら爆発しますが、そんな事は稀ですから」
「その稀な事が、あったらどうする?」
「戦闘メカなんだから、いざという時の自爆装置と思えばいいじゃないですか」
「よくない!!」
「でも、オリジナルの北村海斗さんは、モニターが終わった後、これのテストパイロットに正式採用されたんですよ」
「なんだって?」
「モニターの報酬を受け取った、二か月後の事ですけど」
そうか、そうか。結局、生活に困ってその道を選んだのか。
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