ゲームっぽい世界でさいつよテイマーに転生したわたし ~わたしにとっては現実世界なんだもん~
ディーバ=ライビー
001:属性は『秩序にして善』のはずなのに
これを読んでいるテイマー志望の男性の皆さん。あなたにはムリです。
ユニコーンのテイムは諦めてください
これを読んでいるテイマー志望の女性の皆さん。
なるべく早くにユニコーンのテイムに挑戦してください。
なぜって?
え? もしかしてあなたは、えっと、その……あ、それだと、もう手遅れかも。
☆★☆★☆★☆★☆★
ここは《ポコジゥ=ラバ》の村。
これといった産業もなく、近くにダンジョンや霊域があることもない、ごく普通の小さな農村のはずだったのに、いつからか夜な夜な現れるウィル・オ・ウィスプに悩まされるようになってしまったという。原因は未だわかっていない。
ウィル・オ・ウィスプは霊体とも魔法生物だとも言われる実体のない存在だ。その正体は、魔法生物学会でも定説らしきものが現れていないほどに研究が進んでいない。
ま、そのへんの分類は学者さんに任せるよ。
わたしたち冒険者にとって重要なのは“殴っても効果がない”という事実のみ。
要するに、剣とか槍とかを使う戦士職には不向きってこと。
たしかに魔法剣を使えばダメージを与えることはできるから、ぜったいムリってことはないんだけどね。著しく効率が悪いの。
「だから、高位の魔術師にして伝説級のテイマーである、このミントちゃんが呼ばれたわけなんだよっ!」
いけない。なんかこう、最初だからってテンションがおかしい。
普段のわたしはこんなんじゃないのに。
でもね、自分で言うとなんかいやみに聞こえちゃうかもしれないけど、魔術師としてもテイマーとしても突出してわたしの技能が高いのは確かなんだよね。
それに関しては、まあ“前世”の話とか、ちょっとうさんくさげな事情が影響しているんだと思う。あ、気になるかもしれないけど、この話はまた今度ね。
とにかく、ウィスプを片付けなきゃ。村人達が安心して眠れないし。
「フェルディナント(Ferdinand)、止まって(Stop)」
村の広場でユニコーン(フェルディナント)の足を止める。
人通りはほとんどない。ただ、遠巻きにこちらを覗いている視線はビシビシと感じてくる。
「まあ、ユニコーンってあんまり見ないしこわいかもね。しかも乗ってるのは余所者だし」
ユニコーンは幻獣の中では1,2を争う知名度を誇る存在だと思う。見たことはなくても、ユニコーンの名を知らない人はたぶんいないよね。
『調教(アニマルテイム)』の技能さえ一定以上のものがあれば、実はユニコーンのテイムはまったく難しくない。基本的に大人しく優しい生物だから、ドラゴンやナイトメアのようにテイム中に怒らせて襲われる心配がないからね。
ただ、この基本から外れた場合の調教成功率は0。不可能になる。
テイマーになった女の子は、なるべく早期にユニコーンのテイムを成功させておくことを推奨される。それこそ、スキルが満足と言えない段階にでも、ムリして弟子に挑戦させる師匠もいるらしい。
これはもちろんユニコーンのテイムに危険が少ないこともあるけど、もう一つの条件が関わっているんだよね。
その、もう一つの条件っていうのは、えっと、そのつまり……ごにょごにょ。
だから! ほら! ユニコーンってアレでしょ。なんかこじらせてる感じでしょ。
――そう、ユニコーンはね、処女の女の子のテイムしか受け付けないの。
あ、男性テイマーは最初から対象外です。残念。
ていうか、非処女の女性が近づくと襲ってくるんだよ、野生のユニコーンって。
それを知らずにユニコーンの森に一人で迷い込んでしまった女性が、数日後に性別すらわからないほどの凄惨な姿で発見された事件もあるくらい。
もっとも、一度テイムしてしまえば、その後に、その、そういう経験しちゃったとしてもね、そのままペットのままでいてくれるんだけど。
そんな事情で、実のところユニコーンはちょっと苦手だ。
だけど、実体のない魔法生物を相手にする場合には、ドラゴンよりもナイトメアよりもユニコーンの方が向いているんだ。
「よくいらっしゃいました」
ふえ? 広場に佇むわたしに誰かが声をかけてきた。
なんとなく品の良さそうなおじいさんだね。
「冒険者ギルドの方ですね? 私は村長のマイケル・グルーバーと申します」
「ああ、村長さんですか、はじめまして。ギルドから派遣されてきた、テイマーのミントです」
「遠くからでお疲れになったでしょう。私の家までご足労いただけますか。ご休憩がてら、現状の説明をさせてください」
「わかりました、お願いします」
「フェルディナント(Ferdinand)、ついてきて(follow me)」
貴族様と従者でもあるまいし、徒歩の人の案内に馬上のままついて行くのは失礼に当たるよね。ユニコーン(フェルディナント)から降りて追従の命令(Command)を発したのち、村長さんの案内に従って一緒に徒歩で彼の家まで向かうことにする。
その道すがらのことだった。
「グルーバーさん」
「ん? なんだロジャーか。私はお客さまの案内をしているんだ。急ぎでなければあとにしてくれないか」
緑の服に弓を携えた若い男の人だ。
たぶん、この近くの森で猟をしている人かなって思った。
「わたしは構いませんよ。お話を聞いてあげてください」
「そうですか、それではご厚意に甘えさせていただきます。なんだね、ロジャー」
聞き耳を立てているのもお行儀が悪いし、ちょっと離れてフェルディナントの首をこちょこちょしながらお話が終わるのを待とうとしてた。
「だから、森はダメなんですよ、冒険者なんか入れたら神様の怒りを買うことになる」
ん? わたしの話をしてる?
ちらっと目をやると、ちょっと慌てた感じの村長さんと目があった。
「ロジャー、それはもう村として結論が出たはずだろう?」
「俺は納得してないです。弟のサイモンだって樵のハンフリーだって、森で仕事をするやつらはみんな反対してたはずです。それだってのに」
あ、なんかにらまれた。
「ロジャー! わかった、話は後で聞くから、いまは帰れ」
「くそっ」
最後にまたわたしに怒りの一瞥を飛ばしつつ、ロジャーさんは去って行く。
「すみません、ご不快な思いをさせて」
「それはかまいませんけど、この件についても――」
「ええ、家に着いたら説明させていただきます」
お茶を運んできてくれた村長さんの奥さんは、とても柔和で上品そうな人だった。
ただ、村長さんにはコーヒーなのに、わたしの前にはホットミルクを置いていった理由だけがよくわからなかった、なんかモヤモヤしたけど、きっとこの村の風習なんだと思って気にしないことにしたよ。
「では、ご説明いたします」
「お願いします」
「まず、具体的な発生地点はわかっていませんが、ウィル・オ・ウィスプが夜の森からきて、朝になると森に帰っているのはまちがいありません」
ウィスプが同じコースを毎回移動している?
あれに知能はないし、寒暖や雨風の影響も受けないし、食事をするわけでもないから、移動して何かをする理由も習性もないはずだよね。
「腑に落ちないという顔をなさってますね。私たちもウィスプのことを少し調べてみたんですが、発生地点からほとんど動くことなく魔力(寿命)が尽きるまで漂っているのが普通らしいですね」
「そうです、付け加えると、やつらに昼も夜もありません。時間になると帰っていくのも解せないです」
「ふむ、それではやはり、その異常行動を起こさせるなにかが?」
「森にあるんでしょうね。ところで、先ほどの『森に余所者を入れるな』というのは?」
「もう何十年も前に形骸化している樵や狩人などの信仰と言いましょうか……」
「ああ、そういうお話ですか。それでは前もって念のためにお尋ねしておきます。わたしが入っても構わないんですね?」
「はい、とにかくいまはウィスプをなんとかしていただきたい。日が落ちたら誰も外に出られない状態なんですよ」
森の調査は明日からすることにして、今夜は村に来襲するウィスプを確認しようと思った。
そろそろ日が落ちて30分ほど。説明に寄れば、あと1時間もしないうちにウィスプがやってくるはずだ。
果たして、それは現れた。
10,20……100以上? うそでしょ、そんなの聞いてないよ!
そのうちのいくつかが、わたしとフェルディナントのと横をふよふよと漂いながら、村の中心部に向かっていく。ウィル・オ・ウィスプはこちらから攻撃を仕掛けなければ襲っては来ない。その習性は生きているみたいだね。
「どうしよっか、フェルディナント」
「ブルルル」
まあ、答えるわけもないけど。
こちらから攻撃を仕掛けなれば襲っては来ないけど、もし仕掛けたとしたら、別の個体までが連携して襲ってくるんだよ。
「100匹相手じゃ、さすがのユニコーンもきついよね~」
そもそも、わたしに矛先が向いたりしたら一巻の終わりだよ。あいつらは魔力(寿命)と引き換えに、上位攻撃呪文の『Energy Strike』を放ってきたりするから。
結局、何もできないままに一夜が明けようとしている。
なるほどね、夜明け前に揃って撤収するのも事実なんだ。
「これ、追跡するべきかな」
ちょっと考えたけど、やめた。
だって、ノープランで着いて行って、万が一これだけのウィスプを操るボスのような存在が待ち受けていたら最悪だもん。
昼間には活動しないなら、昼間に様子を見に行った方がいい。
それまでは一休みだ。あてがわれた宿屋に行って仮眠を取ろう。
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