第32話 作戦会議

 いきがかり上、僕こと古谷三洋(ふるや みひろ)と学園の神聖ヒロインである八島鈴(やしま れい)との同居生活の経緯を星宮花蓮(ほしみや かれん)先輩に話さざるをえなくなった。


 僕の親友であり星宮先輩に告白したばかりのデブ、山根浩二(やまね こうじ)を加えて四人で車座(くるまざ)になる。カラオケ大会は告白大会に替わり、そして今、作戦会議に変化していた。


「フフフ。それで二人は楽しそうにひっついて登校しているんだ」


「星宮先輩!僕達、くっついてなんか・・・」


「あらそうかしら。仲睦まじく公園の前で指切りとか」


 くっ!どう答えたものか。まさか見られていたのか?公園横の豪邸が自宅なのだから可能性は否定できない。僕の顔は恥かしさで早くも赤くなる。


「それだけじゃないわよ。雨上がりの放課後、公園のブランコで揺れるずぶ濡れの美少女。そこに現れたボサボサ頭の男の子。捨て猫を拾って振り向く先に、雲を割って射し込む光に包まれて・・・」


 うおっ、おおっ。あの現場まで・・・。やめてくれ!


「星宮先輩。覗き見なんてして無いですよね」


「覗かなくても丸見えだったわよ。もう、ピュアな感じに私までキュンキュンしたわ」


 ときめかれても・・・。楽しそうに口角をクイッとあげる星宮先輩。もはや何も言えない。


「成程、花蓮が証人と言う事か。これはもう運命だな」


 山根がクマのような巨体を揺らして嬉しそうに笑う。星宮先輩はともかく、こいつには言われたくない。僕はテーブルの下のやつの足を思いっきり蹴った。


「イタッ!古谷、お前」


「あれっ。足が何かに当たった様な・・・」


「協力しないぞ」


「ごめん。ちゃかして欲しくなかっただけだ」


「真剣なんだったな。俺が悪かった」


 こいつ。デブのくせに頭の切り替えが早いな。


「でだ。問題は八島さんの父親がどう出るかだ。海外出張から帰ってきてすぐに電話をかけてきたとなると、娘を取り戻したいという意思はあると思う」


「父が私に帰って欲しいのは『世間体を気にしている』だけよ。いつも新しいお母さんの顔色ばかりうかがっているし」


 八島鈴は口をへの字に曲げる。


「立ち入ったことは聞きたくないんだが、八島さんのお父さんはどんな仕事をしているんだ」


「八島病院の院長をしている」


 えっ。普通のサラリーマンの父を持つ僕の家とは大違いだ。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能の八島さん。僕なんかとは生まれも育ちも違うのか。


「古谷、怖気づいたりしてないよな」


「僕の気持ちは変わらないから」


 そう答えたものの、正直、ビビっている。豪邸に住む星宮先輩。山根財閥御曹司の山根浩二。朝飯とかお弁当とか家庭的な一面をみせる八島さんまで医者の娘とは・・・。どうして僕の周りは、住む世界が違う人間ばかりが集まるのだろうか。


「私は家のことなんて正直、どうでもいいの。病院は義兄が継ぐことになるだろうし、八島の家は継母、義兄の二人に乗っ取られているんだから・・・。私の居場所は何処にもない」


 八島さんが悲しそうな目をしている。学校では感情を見せない神聖ヒロイン。僕の手をギュッと握ってくる。


「なら、八島さんが家を出ても継母、義兄も問題なしだな。残るはお父さんの面目ってことか。良し、決めた」


 山根の目がキラリと光る。


「何を決めたんだ」


「八島さんの嘘をつき通す」


「何だよそれ」


「古谷家と八島家は親戚ってことさ。いとこ同士なら世間は騒がない。丸く収まる。その線で八島さんのお父さんを説得するぞ」


「私の嘘を・・・。フフフ」


 さっきまで悲しそうにしていた八島さんが楽しそうだ。


「コウちゃん。賢い」


 頼もしそうに野獣を見つめる星宮さん。


 デブ、大胆だな。マジかよ!


「僕の両親はどう説得するんだよ」


「自分の家族くらい自分でなんとかしろ。そこまで面倒はみれん」


 顔を青くする古谷三洋。その時、八島鈴のスマホが再び鳴った。


「お父さんからだ」


「よし、作戦開始だ。俺がでる」


 山根浩二は不敵な笑みを浮かべる。


「やっぱりコウちゃんだ。面白くなりそう」


 学園のマドンナ、生徒会長の星宮花蓮先輩、遊びじゃないんですよ!


 待った無しの状況に怯える古谷三洋であった。

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