第17話 学園のマドンナ 星宮花蓮

 授業中にふりかかる慣れない女子の視線と男子どもの怨念の視線に耐えながら、なんとか午前中の授業を乗り切った。


 休み時間に山根浩二(やまね こうじ)が盾になってくれた功績は大きい。明らかに僕に声をかけたがっている女子は、山根の巨体を見て怖気づく。女子が動かなければ男子にそれほど不満はたまらない。


 売店のシュークリーム、一個なら安いものだ。


「メシに行くか」


「おう。約束のものは忘れるなよ」


「わかっている」


 古谷三洋(ふるや みひろ)はカバンの中から、八島鈴(やしま れい)お手製のお弁当を取り出す。


 山根の巨体を陰から、チラリと八島さんの顔を覗き見る。いつも通りの、学園の神聖ヒロインらしい凛とした姿で、取り巻きの女子に囲まれている。


 すんだ水のような美しさにハッとさせられる。が、家にいる時のような親しみやすさがない。近寄りがたいオーラを発している。


 普段、学校で見せる彼女の姿はいつもこうだが、屈託なく笑う姿を知っている僕には物足りない。


 もっとフレンドリーに周りと接すればいいのにな。その方がずっとかわいい。絶対にそう思うぞ。


 が、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能の彼女に求める周囲の期待は違うのだろう。近寄りがたい神聖さ。息がつまらないのかな?


「どうした。行くぞ」


 山根の言葉に我にかえる。古谷三洋は山根浩二と連れたって教室を後にした。


 売店で約束のシュークリームを山根に買い与え、学食に入る。予想されたことだが、あちらこちらから女子の視線が飛んでくる。


 できるだけ目立たない、すみっこの席をとる。弁当の包みをテーブルに置いて一息つく。


 ふー。八島鈴の気持ちが少しだけわかった気がするわ。これじゃあ、気安くはなをかむことだってできやしない。


「俺、いつものラーメンを買ってくる」


 山根が席を立つとボッチになる。さすがに行くなとは言えない。


「できるだけ早めに戻ってくれ」


 僕は山根の前に置かれたシュークリームを指さして告げる。周囲から飛び込んでくる視線から目を逸らす。


「ははは。自業自得だな。慣れないことをするからだ」


 山根は立ち上がると、巨体を揺らして周りを睨みつけるように一べつする。ギョッとして顔を背ける女子たち。


 普段ならそこまでするかと思うのだが、今は心強い。


 山根がいつもの大盛ラーメンを買い求めに席を離れる。僕は誰とも目を合わせないように、窓の外を向いて時間をつぶす。


「ここ。いいかしら」


 かけられた声に振り向く。理知的な瞳をしたメガネ女子が、学食のサラダと野菜ジュースをお盆にのせて立っていた。


 返答もしていないのに、山根のシュークリームが無造作に置かれた横の席にトレーを置いて座り込む。八島鈴に負けないくらいの美人さんにあ然とする。


「・・・」


「私、星宮花蓮(ほしみや かれん)、三年一組。二年八組の古谷三洋くんだよね。よろしくね」


 くっ。星宮花蓮。私立開南学園高校、生徒会長にして学園のマドンナ。八島鈴と双璧をなす学園きっての才女と噂される美少女だ。彼女を知らない生徒はこの学園にはいない。


 そんな先輩である彼女がなぜに、ほぼボッチだった僕のフルネームを知っているんだ。あり得ないんだけど・・・。


 僕に向いていた女子たちの視線がスッと影を潜め、代わりに男子どもの鋭い視線が飛んでくる。その中には三年の先輩男子も多数含まれるから、余計に質(たち)が悪い。


 なにがどうなっているんだ。いたたまれんぞ。


「あのー、他にも席は空いているかと・・・」


「そうね。でも、私はこの席に座りたいの」


 山根、頼む。早く戻ってきてくれ!僕は心の中で声を大にして叫んだ。

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