第92話 小学生
高校と小学校は当たり前だが違う。同じ教育施設なのだが、校内に漂う雰囲気がまるっきり違う。
壁に張り付けてある児童の絵、大分柔らかめの言葉遣いで注意事が書いてあるポスター。
こんな時代もあったなと思いながら教師の後をついていくと、目当ての教室が現れる。
「では少し待っていて下さいね。私がお二人を中から呼ぶので、呼ばれたら笑顔で登場お願いします!」
そう言った後、「え・が・お」と俺にだけに念押ししてくる。分かっとるわい。
「……何だか転校生みたいね。私達」
「だな。まるっきり転校生と登場シーンだからなこれ。というかあの教師みたいなテンションを維持しないと駄目なのか?」
「どうでしょうね。……私もあんな風に子供と接するのを長時間やれと言われれば難しいものがあるわ」
「だよな。テンションを常に上げられる人とか一種の特技だと思うし」
教室の中からはガヤガヤとした児童の話し声が聞こえる。その声色には高校生とは違い、楽しさや明るい感情が多く含まれていた。
「――じゃあこれからの時間を一緒に過ごしてくれるお兄さんとお姉さんに登場してもらいましょう!」
「はーいっ!!」
(うわ……何でこんなに盛り上がってるの。出にくいな……)
「い、行きましょうか」
「お、おう」
小学生相手にもこんな風に緊張してしまう情けない高校生二人は、教師の呼ぶ声の後に教室の扉を開くのであった。
◆
教室の扉を開け中に入った俺達を迎えたのは、30人程いる児童達の無垢な瞳だった。
最初に入室した新田の姿を見て近くにいる友達に「うわー! お人形さんみたいー!」「吉川先生よりかわいいー!」と話しかける女の子もいるようだ。まぁそれは分かる。新田の髪って綺麗だし。……後吉川先生どんまい。
そして俺の評価というと――、
「……っ」
新田の姿に色めきだっていた児童達が一斉に黙りこみ、息をのむ音が聞こえる。
……あー、これはやっちゃいましたね。いや、大人でも俺の顔にビビるんだから当然っちゃ当然だけど。
「――は、はい! じゃあ皆に紹介するね! 皆と遊んでくれるお姉さんとお兄さんだよ!」
空気が変わった事を敏感に感じ取った吉川先生は明るい口調でそう児童に伝える。
だが小学一年生にとって凶悪化の魔法が掛かった俺の顔面の衝撃は吉川先生の底無しの明るさではカバーしきれる筈もなく、
「な、なぁ。あの男の人やばいよな……」
「う、うん。お父さんが怒った時の顔より全然怖いよ……」
ひそひそと俺の顔面に驚いた児童の声が聞こえてくる。ここで下手に口角を上げるとマジで泣き出す子が出るような気がするので現状維持でいこう。
「新田紫帆です。よろしくお願いします」
「えー、伍堂政宗です。よろしくお願いします」
頭を軽く下げるとまばらな拍手が起こる。児童の視線はほぼほぼ俺に向けられていた。
「もうちょっとにこやかに出来ないの?」
「そんな事が出来たら今頃友達100人出来てるよ」
隣から小声でそんな事を言われるが、新田だって俺の事を言えないくらいガッチガチの表情をしている。
(やるからには楽しい時間にしたいのだが……。――ん?)
俺を見る視線の中に、一つだけ俺の事を怖がっていない視線がある事に気付く。怯えるような児童達の中に、ジーットただこちらを見る一人の少女。
綺麗な髪を二つに纏めた、所謂ツインテールという髪型。くりくりとしたその瞳は純粋そのもので、あだ名をつけるなら『天使』というあだ名が一番似合う。
そんな天使が俺を一切怖がる事なく、ただひたすらに俺を見ていた。
(可愛い子だな……。というか滅茶苦茶見られてる……)
「それじゃあ皆で宜しくお願いしますを言いましょう! せーの!」
吉川先生の号令で児童達は「宜しくお願いしまーす!」と声を揃える。揃えようとして喋るスピードがゆっくりになる所にいとおしさを感じる。
「それじゃあ体操服に着替えてグラウンドに行きましょう! ――お二人は別室に動きやすい服装を用意してますので移動しましょうか」
「分かりました」
(グラウンドか……。児童を怖がらせないように注意しないとな……)
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