第91話 いざ行かん、小学校

 学校という場所には基本的に一度通えば戻ることはない。小学校なんて尚更だ。


 だからこそ舞い戻って来た時には懐かしいという感情が全身を駆け巡り、校庭にある様々な遊具を見ただけで時の流れを感じさせてくれる。


(やっぱり人間って過去を振り返ると戻りたくなるよな……)


 そんな事を思いながら、足を動かす俺。


 何故今俺が歩いているのかというと、俺達が通う高校の近くに小学校がある影響で高校から小学校までは歩いていく事になった訳だ。


 そうして小学校のグラウンドが見えてきたその時、


「……懐かしいわね」


 隣を歩く新田から小さく声が漏れる。


「新田はここの卒業生なのか?」


「ええ、そうよ。伍堂君は違うの?」


「ああ。俺は違う所だな。でもこの小学校にも俺が小学生の時に来たことがあるような記憶がある」


 この芝生に覆われた小グラウンドと運動会を行えるくらいに大きな大グラウンド。この光景はぼんやりとだが記憶に残っている。


「……そういえば他校の人と何か交流会的な事をした覚えがあるわね」


「だろ? もしかしたら俺と新田もその時にあってたのかもしれないな」


「そう? 伍堂君ともし会っているのであれば忘れる事なんてないと思うけど」


 ……それはあれですか。


 俺の顔の凶悪さは一生忘れない程だと言うんですかそーですか。


「遠回しな皮肉どうも。だけど残念だったな。小学生の時の俺はここまで酷い顔じゃなかったから!」


「そんな悲しい事をカミングアウトされても……」


 若干引きぎみにそう答える新田を見て、俺も心が沈んでくる。……もう止めよう。これじゃただの自傷行為だ。


「――わざわざ来ていただいてありがとうございます」


「いえいえ。こちらこそお待たせしてしまって申し訳ありません」


 小学校の玄関口から出てきた一人の教師と、早乙女先生の声が聞こえる。お互いに社交辞令的な挨拶を交わしているようだ。


「ほら、着いたわよ。ちゃんと笑顔を意識してなさいよね」


「新田の仏頂面もどうかと思うけどな」


 そんなやり取りをしながら、俺と新田は小学校の中へと入っていく。


 高校生になった自分が小学校の中に入る事に、何故か不思議とドキドキする自分がいた。


 ◆


 応接室のような場所に通された俺達はその後、小学校の先生から今日の予定を聞かされていた。


 具体的に何をするのかというと、各担当クラスに別れた後にクラスによって決められた遊びを行った後、学校の畑で児童が育てたさつまいもをスイートポテトにして食べるらしい。


「――えー、では新田さんと伍堂さん。貴女方二人は一年二組の担当ですね! 二組は校庭でサッカーをした後に教室でスイートポテトを一緒に食べてもらいます!」


 若い女教師が弾けるような笑顔を保ったまま俺と新田に日程表を渡す。だが俺は見逃さなかったぞ。


 俺の顔を見て若干動揺したように眉を動かした事を。


「スイートポテトという事は調理実習を行うという事でしょうか?」


「いえ、小学一年生は調理実習が行えないので事前に作った物を食べるっていう感じですね」


 へぇ。小学一年生って調理実習出来ないのか。まぁ包丁とかガスコンロとかを扱うのは危ないしな。


「それじゃあ教室に案内するので二人ともついて来て下さいね!」


(遂にか……。生意気な奴がいないことを祈ろう)

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