第23話 流血
引き摺られている。
衣服の生地越しに灰色の土の感触を全身に感じる。
本来なら砂や衣服が擦れ合う音が聞こえてきそうなものだが、なんの音もしない。
髪の毛を掴まれ、そのまま引き摺られている。いっそ髪が抜ければ逃げ出せるのだが、絶妙な力加減で握られている為、それは期待出来ない。
顔が大根おろしのように擦られないように必死で、首に力を入れて持ち上げる。付け根が痛む。寝違えた時の動きを制限する痛みが続く。
それでも、大きな石や膨らんだ岩に引っかかりそのまま傷ができる。
引き摺られるたびに肋骨のあたりから灼熱の痛みが吹き出る。
これだけで死んでしまいそうだ。
所々で、腕をつっぱり離れようともがくもソレはなんの意にもせずに俺を掴んでまま引き摺り続ける。
どこに連れて行くつもりだ? どのみちこのままでは…。
冗談じゃない。こんなところで死ねるか。俺は腰のホルスターに手を伸ばす。冷たさを指に感じる。剥き出しの刃に手が触れる。
斧はある。それを引き摺られながら引き抜こうと掴む。
バランスを崩して顔を地面にぶつけながらもなんとかそれを右手に収めた。
ソレはこちらを見ていない。ただ俺の頭を右手で掴み前を向いて進み続けている。
小便小僧のような小ぶりな尻を振りながら進むコイツが憎たらしい。
ふざけんな。このオモシロ生物。
体勢的に満足に斧を振りかぶる事は出来ない。
どこに斧をぶつける? 俺の頭を掴んでいる手か?
それとも。
いや、決めた。ここだ。
でこぼこした地面に俺の体が跳ねる。その勢いで斧を小さく振りかぶり、今だ。
ザボ。
一瞬ではあるが、世界に音が戻った。
うつ伏せの体勢から放てる一番体重と勢いのこもった斧の一撃はソレの短い右膝の半ばまで食い込んだ。
ソレが動きを止める。俺も斧をソレにくらわせたまま動けない。
瞬間、頭を上に一気に引き上げられた。髪の毛の何本かが千切れる。頭蓋骨の中で毛根が潰れる音を聞いた。
浮遊感。そして、
いっだ
「」
鼻から血が吹き出す。
折れた?
また持ち上げられ、
がっ
「」
前歯が唇の裏に刺さる。
また、
ぎゃっ
「」
顔を少し左に傾けた。頬骨に痛み、右目が潰れそうだ。
なんども、なんども、ソレは俺の頭を地面に叩きつける。力加減を知らない幼子が、使い方の分からないおもちゃで遊ぶように。何度も。何度も。
やめろ、やめて。やめてくれ、ほんとに、しぬ。
浮遊。
落下。
がっ
「」
音のない悲鳴が漏れる。痛くて、苦しくて、眠たい。
なんで、俺がこんな目に。ちくしょう…
灰色の土地に赤い血が少量、染み込んでいく。
ああ、ここは暗い。嫌な事を思い出してしまう。
目の前が真っ暗になり、何も見えなくなった。
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