All Right うまくいく
中州修一
第1話甘くて大切な思い出
人生なんて、うまくいかないことの方が多い。
ぼんやりとしている時、僕はそんなことをよく考える。いつか俺が就職して、年老いたとしてもこの考えは変わることは無いと思っていだろう。
こんな風に考える時、いつも僕はあの人のことを思い出す。隣に座った時の甘い香り、天真爛漫な笑顔、全てが、いまでも僕の鼓動をはやめる。
「ねぇ長谷川くん」
「なに?」
「『うまくいく』って英語でなんて言うの?」
放課後の教室、彼女は僕にこんなことを聞いてきた。誰もいない教室に、明るい声が響く
「all right とかでいいんじゃない?どうしたのいきなり」
「んー?最近うまくいかないなぁって思ってさー、あいむのっとおーるらいと」
僕が勉強している隣で、彼女はぼーっとしながらそんなことを言う。
「三好さんもそんなこと思うんだね、意外」
「意外ってなによ!ほんと失礼だよね君は」
言葉とは反対にケラケラと笑う彼女。
教室から見える窓の景色は、冬も近いからか早くも日が暮れ始めてオレンジに染っている。
「僕はいつもうまくいかないと思ってるよ」
「そうなの?そっちこそ意外」
「なんで?」
「いや、だっていつも1人だし、考えることなさそうだから?」
「そっちの方が失礼だよ。」
今度は僕まで笑ってしまう。確かに高校時代上手くいったことなんて滅多になかったが、この2人の時間だけは本当に楽しい時間だった。
こんな感じで彼女と話し始めたのは夏休みが終わったあとの席替えで隣になってからだった。なんせ彼女は成績が悪く、強制的に先生が彼女の席を前に配置したのだ。
「長谷川くんって毎回前の席だよね、なんで?」
「目が悪いし、どうせ後ろに行ったところでやることないから。先生に前にしてってお願いしてる。」
「ふぅん。長谷川くんてなんか変わってるね」
最初は何だこの人と思ったが、こんな会話自体をあまり経験して来なかった僕にとって、学校に来るひとつの楽しみとなっていた。
「私ね、先生に課題出されててさ、放課後それ消化するの手伝ってくれない?」
何日かたったある日の放課後、彼女はこんなことをお願いしてきた。
「いいよ、でも数学はやめてね。」
「数学は得意だからいい!やったー!ありがとう!」と嬉しそうににこに笑う彼女。
そんな表情に少しどきりとして、思わず目線を外してしまった僕に彼女が頭を寄せてきて
「じゃあ、明日からよろしくね?」
こうして僕と彼女は2人で勉強する関係になった。
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