孤独な火継ぎを救うには
ぐしゃ
加筆前の草稿
「かつて、この国も火がついていた時があった。
そう、真ん中に大きな穴が空いたあの時だ。
穴は強い力の源だ。人はそれを火と呼ぶ。穴から火が生まれるんだ。失われたものを取り戻すとき、はじめて僕らは1つになれる。1つの火の玉になるんだ。
しかし火が炎になり、水すら温めるようになると、僕らの頭は暖かい水の中ですっかり茹で上がってしまった。それは癒しであり報いであり、そして呪いでもあった。
僕らはもう外の寒空に出る勇気を失ってしまった。勘違いしてはいけない。火が生まれるところに呪いはある。呪いは火がなくては始まらない。確実なことなんだ。風船がいつかは弾けてしまうように。
もちろん、温い水の中にいるのをよしとしない人もいただろう。彼らは外に出て、乾いた、命のない土地を探して、枯れ木の枝に火を灯した。三日三晩、目をこすりながら薪をくべ、火を大きくし続けた。
彼らはとにかく、火を大きくしないといけなかった。あの温い水を、水ごと蒸発させてしまいたいんだ。彼らは、温い水の中で、それでも孤独だったんだろう。穴は彼らの心に空いていたんだ。あの暖かい水が辛くてたまらなかったんだ。
そのうち、より火は大きくないといけないとなった。火継ぎだけでは効率が悪い。彼らの一人は木こりになり、一人は火継ぎになり、残りは木こりと火継ぎの食事と体の世話をした。
そうして外は暖かくなり、上昇気流を生み、枯れた森に雨すら降るようになった。人々は口々に
「もうすぐ水が飲めるね」
といった。
木こりは薪を探す手間が減るよと喜んだ。
火継ぎは少し嫌な気配を感じながら、しかし自分にはもう火継ぎしかできない気がしていた。
雨は川になり、湖沼になり、そして外を豊かに満たした。水はとても冷たかった。あまりにも冷たいので、人々はとても苦しみながら水を飲んだ。
この頃、木こりはひどく機嫌が良かった。昨日は見たこともない巨木を切り倒したと噂だ。雨が枯れた土地を豊かにしたのだ。
火継ぎといえば、雨続きで少し調子を崩していた。外にはじめて飛び出した頃の体力はなく、なのにあの頃よりも火をくべるとはひどく大変な仕事になってしまっていた。
木こりは、水を火で温めようと提案した。火は私たちのために使うためにあるのだから。
戦いは昔の話さ。
僕らは十分に認められている。
乾いた土地ではひどく食べ物がなかった。
でも、最近は魚が獲れる。
息子は、漁師にしようと思う。
・・・これは進歩というものだ。
もう、私たちは私たちのために生きていいじゃないか。
そういったことを言った。
火継ぎには、それもそうかという湿った心と、あの生暖かい、頭も心ものぼせてしまう水に浸かるなどもう二度とごめんだ、しかも自分の手で”それ”を作るなどというのは耐えられない、そんなカラカラの孤独な思いと、
そして、昔はともに火をくべていた木こりからそんな提案を受けるだなんて信じられないといった、裏切られた心があった。
私は、どうして火をくべているのだ。
世界は、失われた穴を埋めるために強い力を生み出す。それは集団に空いた穴や、あなたに空いた穴から生まれる。強い力は黒い煙を上げて、火を灯し、道を照らしてくれるだろう。
しかしながら、火は水を呼び、あなたの周りを豊かにするけれど、あなたの穴は埋めてくれない。
それをはき違えた火継ぎは、間も無く水に溺れてしまうだろう。火継ぎが消えた小さな穴も、世界は瞬く間に埋めてしまう。
穴から火は生まれ、そして火は水を呼ぶ。水の中で人には小さな穴があき、それが小さな炎をつける。そして、自らが生んだ火が水を呼び、あなたは途方にくれている。
世界にはもう1つ、弱い力というものが存在する。それは熱を持たない。それは多くの人を惹きつけないし、水とは全く関わりがない。人によっては存在しないとすら信じていたりする。
だが弱い力は世界に穴があろうとなかろうと、いつでもどこでも発動し、
そしてあなた一人だけは必ず自由にする。
そして弱い力は、本当にあなたがその力を与えたいと願ったものにはそれを与えることができる。
人々はこの力の名前を知らない。目に見えないのは恐ろしいのだ。あなたにこれから、その弱い力を教えよう。あなたを呪いから解放し、暗い炎を灯すだけの火継ぎから解き放とう。
ただし、かなり遠回りをしなければならない。弱い力は繊細だから、扱い方も一人一人異なる。それを全て教えることはできない。三日で覚える子もいれば、置いても扱いに困る子だっている。やはり強い力は簡単だから、火継ぎに戻るものもいる。
それはそれで構わない。弱い力は、選ぶものではないのだから。でも僕なら、その弱い力の扱い方、コツを教えてあげられるだろう。そしてあなたの孤独は満たされるのだ。」
孤独な火継ぎを救うには ぐしゃ @gusyagusya1884
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