ジョージ・プニッツをしってるかい?
本喜多 券
第1章その1 出会い
ねえ、あのー、ジョージ・プニッツって知ってる?
かわ子は妙な表情を浮かべた。最もだ。私と彼女が口を聞くのはこれで2回目。まだ互いに素性を知らない同士、唐突にこんな質問を投げかければ誰だって戸惑う。
「えっ」
いや、ジョージ・プニッツ。
「いや、知らないけど.....」
僕らは同じ食堂でアルバイトをしている。とはいえ担当部署が違っている。僕はカウンターで彼女はレジ。お互いこの食堂で働き出してから半年ほどで有ることを先週初めて口を聞いたとき知った。その時互いにはじめて面識を持った。
僕は相変わらずうまく言葉を交わせなかった。他の人はもっと上手くやる。なのに僕にはできない。悔しかった。彼女はそんなこと気にも止めていないだろう。そんな事は分かりきっている。なおさら悔しくなる。
かわ子は食事休憩に入り、僕のカウンターに食事を取りに来た。
お疲れ様と一言、相変わらず二の句を継げない。だから諦め半分で思いついたままを言った。ジョージ・プニッツ。
またやってしまったのか。シクジったのか。かわ子はヤバイやつを目の前にした時の表情だった。ガヤガヤ賑わう食堂内を、この二人の間だけ微妙な空気が流れる。
えっとー、あの、ルワンダの、ヤバイやつ。
「えっ?なにそれぇ」
少し表情が和らぐ。よく分からないが上手くいったのか。しかし相変わらず分からない。ただ一つ僕はかわ子の表情が緩むのを見て喜びを感じていた。
続きはー、また今度。
「えー、なにそれー」
あっ、いらっしゃいませー。じゃあね(笑)
次の客が来てわかこは行った。
彼女の黒い後ろ髪が視界の端を遠ざかっていく。僕は安堵した。「あっ」と、緊張がゆるみ、チリソースが手から落っこちて、手元が真っ赤に染まった。
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