お花見しよう! 後編
「マユー!マリアたちきたのっ!!」
「来たよー!早く食べよう!!」
「チーズっ!マグロ!!お刺身っ!」
どうやら、マリアたちがやってきたようだ。
私は作ったばかりのおつまみを持って、外に出るとちょうどマリアとユキさんが小走りにやってきたところだった。
マーニャたちがユキさんたちを「早く早く」と急かしているようでマーニャたちの後を追うように、マリアとユキさんが追いかけている。その遥か遠くに見える人影は村長さんだろうか。
「いらっしゃい。マリア、ユキさん。マーニャたちが急かしちゃったみたいで、ごめんなさい。」
私はおつまみを持ったままマリアとユキさんを迎える。
マーニャたちはおつまみを持った私の周りをグルグル回っている。
「マユ、マリアたち来たからチーズ食べるのっ!ちょーだいっ!」
「マグロのお刺身っ!マユっ!早くっ!!」
「チーズ♪マグロ♪」
マリアたちとの挨拶をする暇もなくマーニャたちが早く食べたいと催促をする。
私は苦笑しながら、マーニャたちの頭に手を乗せて撫でる。
「みんなが揃ってから。まずは挨拶でしょう?」
「挨拶もう終わったっ!」
「うん!こんにちわしたっ!」
「ボーニャもこんにちわしたの。」
どうやらマーニャたちはマリアたちに既に挨拶を済ませているようだ。ただ、マリアとユキさんの様子を伺うとちょっと苦笑しているように見受けられる。
これは、一方的にマーニャたちが挨拶をして「早く早くっ!」と急かして連れてきたな……。
「猫様たちは元気いっぱいね。」
「本当ね。久しぶりに走ってしまったわ。」
マリアもユキさんもにっこりと笑みを浮かべている。
「あはは。まあ、座って座って。村長さんも後から来るのかな?」
「ええ。もう年だからねぇ、走れないのよ。ごめんなさいね。」
ユキさんは上品に微笑みながらそう言った。ユキさんもかなりの年配に見えるが、実は体力的にはまだまだ若い。というか、ユキさんは私と同じ日本からこちらの世界にやってきた異世界転移者だ。
この世界ではなぜか異世界から来た人は年を取ることが無い。そのため寿命もない。
ユキさんはそれにもかかわらず老婆のような見た目をしている。それには理由があり、夫である村長さんと同じく年をとっていきたいからという理由で、偶然出来上がった私の作った化粧水を飲んだから見た目だけ村長さんとつり合いが取れるようになっている。
あくまでも見た目だけだけど。
「そうそう。マユ、私クッキーを焼いてきたわ。あと、バウンドケーキも焼いてきたのよ。みんなで食べましょう。あ、お皿もナイフも持参したから用意しなくていいわよ。」
マリアはそう言って背負っていた鞄を敷布の上に置いた。鞄の中からクッキーとバウンドケーキを取り出して、敷布の上に広げる。
芳醇なバターの香りがあたりにふんわりと広がった。
「わぁっ!美味しそうっ!」
「まあ、本当ね。とても美味しそうだわ。」
ユキさんもマリアが取り出したクッキーとバウンドケーキを見て目を輝かせている。
お菓子ってやっぱり偉大だ。
「そうそう。私もね、持ってきたのよ。」
そう言ってユキさんも鞄の中から何かを取り出そうとする。
私は首を傾げた。
ユキさんは料理ができないはずなのだ。
マリアのように何かを作ってきたということはないだろう。では、何を取り出そうとしているのだろうか。
結論から言うと、ユキさんのショルダーバックからは一升瓶が3本でてきた。
ユキさんの手料理じゃなくてよかったとホッと胸をなでおろしたのはユキさんには内緒だ。
それにしても、ユキさんの小さなショルダーバックからよく一升瓶が3本も出てきたなと感心しながらショルダーバックを見つめる。
とてもではないが、お財布くらいしか入らないような大きさに見える。
「うふふ。お酒を持ってきたわ。お花見と言ったらお酒だものね?度数はちょっと高いから気をつけてね。あ、あとお猪口も持ってきたわ。やっぱりお酒はお猪口で飲まないとね。」
ユキさんはこれまたショルダーバッグからお猪口を5つほど取り出した。
「遅れてすまないのぉ。先に初めてくれてもよかったんじゃが……。」
敷布の上にそれぞれが持ち寄った物を並べていると、ユキさんから送れること数分。村長さんがやってきた。
「村長さん、いらっしゃい。いいえ、マーニャたちが急かしちゃったみたいで。すみません。」
村長さんは急いで来たと思うわりには息が乱れていない。
実は村長さんも年齢にしては体力馬鹿だったりするのだろうか。
「ほっほっほっ。構わぬ。とても可愛いお出迎えであったからのぉ。」
「よければお座りください。」
「お言葉に甘えて。」
私は村長さんに敷布の上に座るように促した。村長さんはすぐに敷布の上に胡坐をかいて座った。
「ユキさんから美味しそうなお酒をいただきました。ありがとうございます。」
「なんのなんの。どれもとても美味しいからの。みんなで飲みたかったんじゃよ。」
「ふふっ。実はこのお酒年代物なんですよ。この人がもったいなくて飲めないって飾ってあってね。」
「それは言わない約束じゃ……。」
「あら。うふふ。ごめんなさい。」
どうやらユキさんが持ってきてくれたのは村長秘蔵のお酒らしい。これはガブガブ飲むわけにはいかないわね。味わって飲まないと。
私は村長さんが持ってきてくれたお酒の蓋を開けて、これまたユキさんが持ってきてくれたお猪口にお酒を注いでいく。
マリアは未成年だから、やめといたほうがいいだろう。私と村長さん、ユキさんの分と、いつから生きているのかわからないほど長生きなプーちゃんの分を注ぐ。
マーニャたちは、これは飲めないとわかっているのか特に騒ぐこともなかった。
マーニャたちの為には猫用のミルクを注いで、マリアにはぶどうジュースでも、と思ったらマリアはおもむろに酒瓶を掴んだ。
「私もこれがいいわ。」
「えっ……でも、年齢が……。」
マリアって未成年じゃなかったっけ?と思いながらストップをかける。
「私も、これが、いいわ。」
しかし、マリアのにっこりとした笑顔に負けてしまった。
「まあ、まあ。マリアちゃんに年齢の話はダメよ。マリアちゃんは永遠の16歳なんだから。うふふ。」
ユキさんはにっこり微笑みながらマリアと私を交互に見つめる。
「わかてますねー。ユキさん。私は16歳なんですよ。」
マリアはそう言ってにっこりと笑った。
どうやらマリアに年齢の話はタブーだったようだ。
私、マリアは16歳だって思い込んでいたけれど、もしかして違ったのだろうか。見た目と違って、実は20歳を優に超えているとか……?
「では、みんな飲み物が行きわたったようじゃの。それでは、乾杯。」
「「「「「かんぱーい。」」」」」
村長さんの合図で私たちは飲み物を手にとってグラスを……もといお猪口を高く掲げた。マーニャたちはミルクの入ったお皿を持ち上げることが出来ないから、私たちを真似て右前足を高く掲げているが。
「うむ。この酒は実にうまい。もう100年は飲んでいなかったような名酒だなぁ。」
村長さんが持ってきたお酒を一口飲んだプーちゃんは上機嫌にわらった。どうやらプーちゃんはお酒の味がわかるようだ。もしかして、プーちゃんって酒好きなのだろうか。
「ほっほっほっ。長年村長をやっておれば、このような名酒にもありつける。この酒の良さをわかってくれて嬉しいわい。」
「軽やかな甘さと突き抜けるような香り。そしてこの芳醇な味わい。とても素晴らしいのだ。」
「ほっほっほっ。流石はプーちゃんじゃのぉ。よくわかっておる。ささ、こっちの酒もうまいでの。」
村長さんはそう言ってプーちゃんにもう一方のお酒を注ぐ。
プーちゃんは注がれたお酒の香りを目を瞑って楽しむ。
「うむ。これも良い香りなのだ。」
「そうであろう。そうであろう。」
どうやらプーちゃんと村長さんは気があうようで二人でお酒の話で盛り上がっている。
まあ、プーちゃんが暴れないならいいか。
「お花見って綺麗ね。」
「そうだね。」
「でも、あっという間に散ってしまってもったいないわ。」
「綺麗だからこそ、花の寿命は短いのよ。長く咲き誇っていたら、見飽きてしまって綺麗だと思わなくなってしまうわ。パッと咲いてパッと散る。だからこそ、いいのよ。」
ユキさんはそう言ってどこか遠くを見るように微笑んだ。
「あーーーーっ!!それマーニャのミルクっ!!!」
「早い者勝ちなのーーーっ。」
「わぁ。チーズもマグロも美味しいのぉ。」
「あっ!!クーニャ!!あたしの分のチーズとマグロ残しておいてなのーー!って、ボーニャミルク返してー!」
「やなのーーーっ。」
マーニャたちはマーニャたちで食べ物を我先に満喫しようとして軽く喧嘩が起き始めている。
まあ、じゃれていると言った方が正しいのかもしれないけど。
「マーニャ。安心して。まだミルクあるから。ボーニャ、ミルクも飲み過ぎるとお腹を壊すからね。クーニャもあまり食べすぎると後で苦しくなっちゃうよ。」
私はマリアたちと話をしながら、マーニャたちの仲裁……もといお世話をする。
いつも通りの賑やかな日常はとても愛しかった。
できればこんなに騒がしくて幸せな日常がいつまでも続きますように。心の中で願いながら桜を見上げた。
終わり。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
お花見の番外編は以上になります。
また次回の番外編でお会いできれば幸いです(*^^*)
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