お花見しよう! 中編
「我、参上っ!!」
マーニャたちを撫でまわしていると、急に強い風が吹いてプーちゃんが現れた。
そう言えば、プーちゃんどこに行っていたんだろうか。
プーちゃんがいないと平和で楽しかったのに。
プーちゃんの登場とともに、風圧で敷布が大きくめくれ上がった。石程度の重しではプーちゃんが巻き起こす風圧には敵わなかったらしい。
敷布の上に用意したおつまみが台無しになった。
マーニャたちのために用意したマグロも敷布の上に散らばってしまった。
「……プーちゃん、もっと大人しく登場できないの?マーニャたちに用意したご飯がプーちゃんが起こした風で飛び散ったわ。」
私は静かな怒りを込めてプーちゃんを見る。
プーちゃんは少しだけたじろいだ。
「……う、うむ。すまなかった。マーニャ様、クーニャ様、ボーニャ様お許しを……。」
プーちゃんはマーニャたちのご飯を自分がダメにしてしまったことに反省したようだ。マーニャたちのご飯についてだけ反省したようだ。
私が用意したマーニャたちが食べない(食べれない)おつまみについては謝罪すらない。まあ、プーちゃんらしいったららしいけど。
「マユが用意してくれたものと同じの用意してくれたら許すのー。」
「プーちゃん、メっ!」
「プーちゃん、メっ!」
マーニャは意外と寛大なようだ。ただ、私が用意したものをプーちゃんが用意するのは難しいだろう。マーニャは謀らずともプーちゃんを試しているように思える。
対してクーニャとボーニャはプーちゃんにお叱りの猫パンチを繰り出している。まあ、でも、クーニャとボーニャのことだ。きっと爪は立ててないだろうし軽いジャブのようなものだろう。爪を立てていたところで、プーちゃんの硬い鱗にはダメージがないはずだ。
「……わかったのだ。すぐに用意するのだ。」
プーちゃんはマーニャたちに怒られたことにショックを受けて自分がダメにしたものを用意すると言っている。果たしてプーちゃんが簡単に用意できるものなのかと、様子を伺っていたら、プーちゃんが一目さんに私のところに飛んできた。
「マーニャ様たちが酷くご立腹だ。マユよ。早くマーニャ様たちのご飯を用意するのだ。運ぶくらいは我が手伝ってやろう。」
偉そうにふんぞり返ったプーちゃんはそんなことを言ってきた。
そうかそうか。やっぱりプーちゃんはプーちゃんだ。プーちゃんが運ぶと言っただけでもプーちゃんとしては譲歩しているつもりなのかもしれない。
「……ふぅ。」
私は大きなため息をつく。
そして、プーちゃんにはマーニャたちのご飯もおつまみを用意することも難しいことを思い出して、そっと立ち上がる。
「……わかった。マーニャたちのご飯は用意するし、プーちゃんがダメにしたおつまみも用意しなおすわ。だから、プーちゃん。散らかった食べ物を片付けておいてくれるかしら?」
これは私からプーちゃんへの最大限の譲歩だ。
プーちゃんが出来ることだけをプーちゃんにお願いする。
出来ないものは仕方がないから、出来ることだけをお願いする。
「……わかったのだ。ただ、我だって物を運ぶことくらいはできるぞ。」
「そうだね。でも、作り直すのに少し時間がかかるから。作り直すまでの間、ここを綺麗にしておいてくれると嬉しい。」
「……わかったのだ。」
プーちゃんは素直に頷いた。プーちゃんはプーちゃんでとても反省しているようだ。
「ええーーっ。マユ行っちゃうのぉ?」
「やだぁ。マユ、行かないでぇ。」
「なんで、なんで……。」
マーニャたちのご飯を作り直そうと家に向かって歩き出すと、マーニャたちからのブーイングが聞こえてきた。その矛先はプーちゃんに向かっているらしく、プーちゃんがみるみる項垂れていく。
私はマーニャたちをなだめるように優しく頭を撫でる。
「プーちゃんは料理ができないから私が準備しないとみんなが食べられるものがなくなっちゃうよ?すぐに戻ってくるから。マーニャたちはお花見をしてて?」
ワインのボトルは転がっているけれど、栓を抜いていないから無事だ。
けれども、私が作ったおつまみたちは哀れにも敷布の上に散らばっている。直接地面に落ちたわけではないから食べれないことはないかもしれないが、これを人様に出すのはあまりにも失礼だ。
「マーニャはマユを手伝うのっ!」
「クーニャもっ!!」
「ボーニャもマユを手伝うのっ!!」
マーニャたちはとてもいい子だ。とても優しい子だ。
だから、こうやってお手伝いを申し出てくれる。
「ありがとう。でも、遊んでていいんだよ?」
「いいのっ!マユのとこ行くのっ!!」
「うん!マユのとこがいいのっ!」
「マユについていくの。あとで一緒に遊ぼっ!!」
「そうなの?ありがとう。終わったら一緒に遊ぼうね。」
「「「うんっ!!」」」
マーニャたちは先を競うかのように、軽やかにステップを踏みながら我先にと家に向かってかけていく。マーニャたちの走る速度には私はとても追いつけそうにない。
軽く走りながらマーニャたちの後を追いながら家の中に入った。
家の中では先についたマーニャたちが走った後の身だしなみを整えるために優雅に毛づくろいをしていた。
私は手を洗うとまずはじゃがいもを切り、先ほど同様油で揚げていく。油でじゃがいもを揚げている間に残っていたチーズを冷蔵庫から取り出し、一口大にカットする。
それが終わると、じゃがいもの火の通り加減を確認してさっと油から取り出して油を切る。
マーニャたちは私のやる作業を興味深く観察していたが手を出してくることはなかった。下手に手を出すと危ないということは理解しているらしい。
大人しく待っていてくれる。
「おいしそー。」
「マユ、ひとくちちょーだい。」
「良い匂い。」
なぁんて言いながら。
「じゃがいもはダメだけど、チーズだったらひとくちどうぞ。」
私はマーニャたちように小さくカットしたチーズをそれぞれ皿によそってマーニャたちの前に置く。マーニャたちは興味深そうにチーズの匂いを鼻を鳴らしながら嗅ぐ。
赤く小さい舌でチーズをペロペロと舐めるとチーズの美味しさが舌から脳に伝わったのか、次の瞬間チーズに齧り付いた。
「「「おいしいのーーーーーっ!!!」」」
どうやらチーズはマーニャたちの口にあったらしい。
食べ終わった後も、舌で口の周りを舐めて余韻を楽しんでいるようだ。
ボーニャがキラキラとした目で私をじっと見つめてきて「もっと欲しい」と訴えかけてくる。好きなだけ食べさせてあげたいが、今は味見の時間だ。
「みんな揃ってから桜の木の下で食べようね。もうすぐユキさんやマリアちゃんも来ると思うからね。それに、チーズ以外にも今日はマグロのお刺身も用意したんだよ。ふふっ。こっちも美味しいよ。」
ボーニャたちのキラキラした目を見ながら語り掛ける。
するとマーニャたちは我先にと家を飛び出して行った。
きっと、ユキさんやマリアちゃんを出迎えに行ったのだろう。
「ふふふ。可愛いお手伝いね。」
結局マーニャたちのお手伝いはチーズの味見で終わってしまったのだった。
マーニャたちの嬉しそうな姿を見ているだけで幸せでやる気が出るからいいんだけどね。
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