第4話

 


 


 


 


「ねぇ。マユ。マユは私の父上のことを知っているのかしら?」


ホンニャンはタイチャンがいなくなるとそう切り出した。


あ、あれ?


もしかして、さっきのホンニャンらしくない弱音はもしかして、どこかでホンニャンを見ているタイチャンをこの場から退場させるためだったのだろうか。


「ええ。知っております。」


私はホンニャンの問いかけに頷いた。


ホンニャンの父親はプーちゃんだ。


もうずっとホンニャンの前には姿を見せていないが。


そう言えば、マオマオが亡くなってからプーちゃんの姿を全然見ていない気がする。となると、ホンニャンもプーちゃんのことを見たことがないのだろう。


あの時は、乳飲み子であるホンニャンに手一杯でプーちゃんがいないことなんてすっかりと忘れてしまっていた。あ、あれ?そう言えば、タマちゃんの姿もずっと見てないような気がするぞ。


二人ともどこに行ったのだろうか。


「父上は生きているのか?」


「えっと・・・。たぶん。私ももうずっと会っていないので多分としかお答えできないのですが・・・。」


「・・・そうか。」


ホンニャンはそれだけ言うと俯いてしまった。


やはり血の繋がった家族には会いたいものなのだろうか。


ここにいる皆は常にホンニャンと一緒にいたが、それだけでは寂しいのだろうか。


「会いたい・・・ですか?」


「・・・うん。」


私が尋ねると、ホンニャンは小さく頷いた。


「でも、タイチャンに言うとタイチャン怒るから。だから、タイチャンのいるところでは言えなかった。」


「そうでしたか。」


確かにタイチャンはプーちゃんのこと毛嫌いしているもんなぁ。


もしかして、タイチャンがいるからプーちゃんはホンニャンのところに顔を出さないのだろうか。


「連絡を、取ってみますね。」


「マユ、ありがとう。お願いね。」


「ええ。かしこまりました。」


プーちゃんと連絡を取ってみる。そう告げるとホンニャンは嬉しそうに顔を綻ばせた。


そう言えば、久しくこのようなホンニャンの嬉しそうな笑みを見たことがなかったような気がする。そう言えば、いつもどこか寂しそうな笑顔を浮かべていた。


どうして、私は気が付かなかったのだろうか。


『プーちゃん来るのー?』


『たまにはプーちゃんに会いたいのー。』


『プーちゃんミルクくれるかなぁー?』


私とホンニャンの会話をすぐそばで聞いていたマーニャたちが嬉しそうに声を上げた。


そう言えば、マーニャたちもずっとプーちゃんと一緒にいたからなぁ。


ホンニャンが産まれてからはマーニャたちもプーちゃんとは会っていない。なので、やはり態度には出さなかったけれどもマーニャたちも寂しかったのだろう。


「念話で話しかけてみるね。」


ホンニャンが産まれてからもう15年が経っている。


プーちゃんは元気にしているだろうか。今、どこにいるのだろうか。


どんな遠くにいるとしても念話であれば連絡がとれるから便利なものだ。


そう思って15年ぶりにプーちゃんに連絡を取ってみることにした。


  


 


「・・・あれ?」


プーちゃんに呼び掛けてみたがしばらく待っても反応がない。


『・・・プーちゃん?』


もう一度呼びかけてみる。しかし、やはりプーちゃんからの反応はない。


「おっかしいなぁ。なんでかプーちゃん返事してくれない。」


私は首を傾げながらマーニャたちに告げた。


『プーちゃんいないのー?』


『プーちゃんどうしたのー?』


『プーちゃんもミルク欲しいんだよぉ~。きっとミルクあげるって言えば返事するのー。』


『『ミルクで返事するのはクーニャだけだと思うのー。』』


マーニャ達も不思議そうに首を傾げている。


っていうか、クーニャは相変わらず発想がミルクだなぁ。


マーニャとボーニャにもつっこまれてるし。まあ、可愛いからいいんだけどさ。


「・・・父上。」


ホンニャンがプーちゃんと連絡が取れないと聞いて、目に薄っすらと涙を浮かべだす。


うっ。やばい。今、タイチャンが戻ってきたらなんて言われっるか・・・。


っていうか、こんなに可愛いホンニャンを泣かせてしまうなんて保護者失格だ。


「大丈夫。プーちゃんはひねりつぶしても、すり鉢ですり下ろしても首を刎ねても死なないから。きっと今は忙しいだけですぐに連絡取れるから安心して。ホンニャン。ちょっと今はタイミングが悪かっただけだから。ね?ね?」


「あたしに会いたくないからじゃないの・・・?」


ホンニャンは私の言葉に反応してジッと見つめてきた。


あ、そっか。


私はプーちゃんが死んじゃったと思ったからホンニャンが泣きそうになっているんだと思ったけど違ったのか。ホンニャンはプーちゃんに会ったことがない。それも、なぜプーちゃんがホンニャンに会いにこないか全くわからないのだ。


そんな状況だったら、プーちゃんが死んでしまったと思うより先にプーちゃんに嫌われているんじゃないか、プーちゃんはホンニャンに会いたくないんじゃないかと思う方が自然だったか。


「大丈夫だよ。プーちゃんはとってもホンニャンのお母さんのことが大好きだったんだから。ホンニャンのことだって大好きだよ。だから安心してね。」


「・・・じゃあ、どうして会いに来てくれないの?」


「うっ・・・。プーちゃんにも事情があるんだよ。きっと。たぶん。もうちょっと待ってみようね。」


私はサラサラしているホンニャンの髪を撫でながらあやす。こういう時気が利いたことを言えない自分が情けなくなる。


『うーん。マーニャにも返事がないのー。』


『ボーニャもプーちゃんに呼び掛けてみたけどダメなのー。』


『ほらー。ただ呼びかけるだけじゃダメなんだよー。ミルクを用意しなきゃなのー。マユ、ミルクを用意するのー。いっぱいいっぱい用意するのー。』


どうやらマーニャたちもプーちゃんに呼び掛けてみたようだ。


しかし、やはりプーちゃんからの反応はなかったみたいだ。


いったい、プーちゃんはどうしてしまったのだろうか。


 


 


 




 


 


 


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