第3話
ホンニャンを撫でていると「ぐぅ・・・っ。」という苦しそうな声が聞こえてきた。
慌てて声をした方を見ると、タイチャンがその場に蹲っている。
そうして、その口には真っ白なハンカチをくわえており、悔しそうにキューっと噛み締めていた。
そうかそうか。タイチャンは羨ましいのか。
そうだよな。
ホンニャンこんなに可愛いし。
撫でたくなるよね。その気持ちはすっごくわかる。
特にホンニャン大好きなタイチャンからすると、ホンニャンを撫でまわすのは夢のような時間なのであろう。
だけれども、実際に今、ホンニャンを触っているのは私であって、ホンニャンではない。
それが悔しいのだろう。
それに、ホンニャンは撫でられてとろけたような表情をしているし。
この表情も独り占めしたいんだなぁと思う。
「あの・・・。タイチャンも撫でる?」
私はこちらを恨めしそうに睨んでくるタイチャンに向かって声をかけた。
すると、タイチャンの顔がパァアアアアアッと明るくなる。
「も、もちろん。撫でさせていただき・・・。」
「やー。ダメにゃの。マユが撫でるにょよ。」
タイチャンが浮上してきたのも束の間、ホンニャンの言葉でタイチャンは撃沈した。
『マユ、タイチャンにとどめさしたのー。』
『すごいのー。』
『タイチャン再起不能なの-。』
マーニャたちは関心したように呟いた。
ってか、関心しなくていいから。
私、タイチャンのこと再起不能にする気なんてまったくなかったのに。
そう思ってはいてもホンニャンを撫でる手は止めることができない。
だって、ホンニャンが嬉しそうなんだもの。
猫みたい・・・。って、顎の下を撫でたら喜ぶかな?
ホンニャンは猫じゃないからそれは無理か・・・。そうだよな。そうだよね。
でも・・・ちょっとだけ・・・。ちょっとだけ触ってみたいかも。
もしかしたら、マーニャたちみたく喜んでくれるかもしれないし。
そう思った私は、ホンニャンの頭を撫でていた手をそっと下におろしていく。
「ふぁっ!?マユ!?」
ホンニャンの顎の下を撫ぜたらホンニャンは驚いたように声を上げた。
まさか、こんなところまで撫でられるとは思ってもみなかったのだろう。
「ダメでしたか?マーニャたちはここを撫でるととても喜ぶのでつい・・・。」
「ふにゅにゅ・・・。くしゅぐっちゃいにょ・・・。」
ホンニャンは驚いたようだが、嫌がってはいないようだ。
くすぐったいとは言いつつも、こちらに顔を寄せてくるのでもっと構って欲しいのだろう。
ただ、くすぐったいと言っている箇所だけ撫でるのは少し可哀想な気もしなくもない。
ホンニャンが一番喜ぶ頭を重点的に撫でてあげれば、ホンニャンは嬉しそうにふにゃふにゃ笑い出す。どうやらとってもご機嫌なようだ。
「・・・マユさん。そろそろ・・・魔王様を、介抱していただけませんかね?」
ホンニャンがうっとりとしていると、いつの間にやら復活したらしいタイチャンが遠慮がちに声をかけてきた。
あの後、ホンニャンの機嫌は最高潮に悪くなった。
もちろん、至福の時を過ごしていたホンニャンにタイチャンが水を差したからだ。
まあ、確かにずっとホンニャンの頭を撫でているわけにもいかなかったので、タイチャンの対応も仕方のないことだと思っている。
それにホンニャンはまだ幼いとは言え魔王様なのだ。
遊んでばかりではなく少しずつ教育していかなければならないというのもある。
まあ、教育と言っても勉強ばかりしていても仕方がないので遊びながら少しずつ物事を学んでいっている状態だが。
☆☆☆
日々はとても穏やかに流れて行った。
タイチャンがホンニャンから嫌われていったのはとても仕方のないことだと思うけれど。ホンニャンがもっと大きくなれば、きっとタイチャンの気持ちも理解できるだろう。たぶん。
それ以外は概ね問題なく、ホンニャンはすくすくと育ち日々魔王として暗躍している。マーニャたちに師事を仰ぎながら。
「マーニャ。私に意見をする人間がいるわ。闇夜に乗じて殴っていいわよね?」
『なんて言われたのー?マユに相談するといいのー。』
「クーニャ。私をバカにする魔族がいるわ。見せしめとして首を刎ねてもいいわよね?」
『誰なのー?マユに懲らしめてもらうといいのー。』
「ボーニャ。私は皆に嫌われているのかしら。皆が私を崇拝するにはどうしたらいいのかしら。」
『そんなことないのー。皆ホンニャン大好きなのー。問題ないのー。』
・・・マーニャたちに師事を仰ぎながら。って、最終的に私になってるじゃん。
マーニャたち面倒くさいこと嫌いだからなぁ。全部、私にふってくるんだよなぁ。
まあ、ホンニャン可愛いからいいけど。
ってか、誰がホンニャンを教育したのか、最近言動が怖いんだよなぁ。極端というかなんというか。
「魔王様。人も魔族も皆、生きておりそれぞれ考えがあるのです。だから、魔王様に対して意見を言ったのでしょう。その意見が魔王様にとって正しくなかったとしても、一度その意見についてお考えになられたらどうでしょうか。」
「むぅ・・・。難しいの。」
「魔王様。魔王様は魔族を率いていくお方なのですから。ちゃんとに考えて皆を良い方向へと導いていってください。」
「マユ・・・。タイチャンと同じことを言うのね。もう。小姑は一人で十分よ。」
「ははっ・・・。」
そっか。タイチャンにも同じことを言われたのか。
私、ホンニャンの中でタイチャンと同じカテゴリーに属してしまったのかな。なんだか、それはちょっとヤダなぁ。
「魔王様。魔王様をバカにしたという愚か者は誰でしょうか?」
「あら、タイチャンいたの?ライチャンよ。」
いつの間にかタイチャンが現れてホンニャンの前に跪いた。
ホンニャンをバカにした相手に怒りを感じているらしい。こめかみがピクピクと動いているのがわかる。
って、私も可愛いホンニャンをバカにした相手には怒りを感じているんだけどね。
「ライチャンでしたか・・・。少々話を聞いてまいります。魔王様はこちらでお待ちください。」
「よろしくね。タイチャン。」
ホンニャンはそう言って出て行くタイチャンを見送った。
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