第46話

 


 


 


『マオマオ・・・。』


「始祖竜様・・・。」


魔王様の部屋から飛び出てきた美女はプーちゃんと抱き合っている。


ってか、プーちゃん。


今、この美女のことを「マオマオ」って呼んだ?


え?もしかして、マジでこの美女が魔王様?


今までの老婆姿の魔王様はいったいどこに行った?


私の頭の中は疑問符だらけである。


女王様はこの事態をどう見ているのだろうか。


そう思って、女王様に視線を向けると、口をポカンと開けてプーちゃんと魔王様を見ていた。


半ば放心状態である。


だよね。


実のお母さんが実のお父さんとは違う人に抱き着いているんだもんね。


そりゃあ放心するのも仕方ないか。


『マオマオ・・・。以前のように、我のことを名前で呼んではくれぬのか?』


プーちゃんは魔王様に向かって切な気に問いかけている。


って、プーちゃん名前があったの?


あれ?プーちゃんってプーちゃんって名前じゃなかったの?


他に名前があったの?


「カナタ様・・・。」


魔王様がそう呟いて顔を真っ赤にして俯く。


プーちゃんは名前を呼ばれたことが嬉しいのか、こちらがわかるくらいに顔がにやけてしまっている。


っていうか、このラブシーンいつまで続くんだろう。


『はあ・・・。まったく、プーちゃんとマオマオはいつもこれだからのぉ。見ていると目の毒なのじゃ。さあ、タイチャンとやら。妾たちを応接室にでも案内するのじゃ。こうなると長いからのぉ。妾たちはゆっくりとお茶でも飲むのじゃ。』


「え・・・。あ、はい。」


『ほれ、マユもじゃ。パールバティーも来るのじゃ。』


「は、はい。」


タイチャンも魔王様のこんな姿は初めて見たのか、現在の状況が処理できていないようで呆然としている。


そのため、タマちゃんに促されるがまま、私たちを魔王城の一室に案内し、紅茶を用意していた。


女王様もプーちゃんを恋い慕う乙女のような魔王様を初めて見るようで、心ここにあらずと言った様子だ。


こちらもタマちゃんに促されるがまま、魔王城の応接室のソファーに座ってボーッとしている。


タマちゃんだけが、魔王様とプーちゃんの関係に動じずにいた。


「タマちゃん。タマちゃんはプーちゃんと魔王様のことを知っていたの?」


『うむ。マオマオはプーちゃんが造り上げた存在なのじゃ。プーちゃんがまだ始祖竜になる前に恋人だった者に姿形をに通わせて造ったのじゃ。』


「へ?プーちゃんの恋人?え?本人は?」


プーちゃんの恋人に姿形を似せて造ったって、その恋人本人はどこに行ったのだろうか。


ってか、プーちゃんって最初から始祖竜だったんじゃないの?


その前段階があったの。


そこから驚きを隠せないんだけど。


『死んだのじゃ。あっけなくな。だから、プーちゃんはマオマオを造ったのじゃ。何があってもすぐに死ぬことがない魔王としてな。』


タマちゃんはそう言って昔を懐かしむかのように目を細めた。


「えっと、何があってもすぐに死なないように魔王としたって言う事なんだけど、それならばどうして魔王様がもうすぐ死ぬだなんてプーちゃんが言うのかな?」


プーちゃんが昔の恋人が恋しくて、昔の恋人に似せて魔王様を造ったというのならば、その魔王様がもうすぐ死ぬだなんて言うプーちゃんの言葉が信じられない。


だって、タマちゃんはもうずっと長生きしているんだよ?


なら、プーちゃんが死なないようにと、長生きできるようにと造った魔王様はタマちゃんよりもずっと長生きをするのではないのだろうか。


そう、思った。


『マユ、もう忘れておるのかのぉ?妾も最初にマユと会った時は卵の姿であった。つまり、妾は死んだのじゃ。他の大精霊たちも一度死んでおる。まあ、一度どころか数百回は死んでおるのじゃ。その都度、卵に戻り生き返る・・・というより生まれ変わるのじゃ。過去の記憶を持ってのぉ。』


「あ、そう言えばそうだった。」


そうだった。


タマちゃんも最初に出会った頃は卵の姿だった。


そっか。


タマちゃんもずっと長生きしているわけではないのか。


『永遠の命などないのじゃ。そして妾も過去の記憶は持っておるが、過去の妾とは性格は違っておるのじゃ。全く同じ者にはなれぬ。それがこの世界の掟じゃ。』


「でも、記憶が残るのであれば・・・。」


『マオマオは記憶が残らぬ。妾が記憶が残っておるのは、世界を造る側だからなのじゃ。しかし、マオマオは違うのじゃ。魔王だからのぉ。それでもかなり長生きしたのじゃ。下手をすると妾よりも長生きしたのかもしれぬ。じゃが、もう限界なのじゃろう。』


「そんな・・・。」


タマちゃんと違って魔王様は死んだら生まれ変わったとしても記憶を無くしてしまうのか。


それはとても悲しいことのように思える。


プーちゃんは魔王様のことをずっと覚えているのに、魔王様は生まれ変わったら記憶を無くしてしまうだなんて。


でも、それが世の理なのだろうか。


仕方のないことなのだろうか。


『それに、妾たちと違う存在ゆえ、生まれ変わる時期はいつになるのかわからぬのじゃ。死した次の日かそれとも一年後か、はたまた100年後になるか。それは誰にもわからぬのじゃ。』


「そ、そんな・・・。じゃあ、今、魔王様が亡くなったら次にいつ会えるかわからないということ?」


『そうじゃ。』


「なんてこと・・・。」


『ゆえにプーちゃんはマオマオに会いたくなかったのかもしれぬのぉ。じゃが、会わぬまま死すのはもっとも辛いことじゃ。ゆえに最期に会えてよかったのだと思うのじゃ。』


「そうだね。会えないままだったら・・・もっと辛いよね。」


まさか、プーちゃんが純愛をしていただなんて。


信じられなかった。


今までなんも言ってなかったし。


彼女がいるともなんも聞いてなかったし。


ん・・・?


彼女・・・?


「あ、あれ?でも、女王様は魔王様の子供なんだよね?正真正銘の血の繋がった。」


プーちゃんが魔王様のことを好きで、魔王様もプーちゃんのことが好きなんだったら、女王様の存在はどういうことなのだろうか。


 




 


 


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