第44話

 


 


 


「ま、魔王様のお手を煩わせるわけにはいきません!意地でもここは通しませんよ。」


タイチャンは余裕の表情を一転させて引きつった笑みを浮かべながらそう言った。


きっと、まったく魔族たちの攻撃が私たちに効かないなんて思ってもみなかったんだろうな。


まあ、プーちゃんだしね。


『我はマオマオに会うのだ。通せぬというのなら、力づくで通るまで。』


プーちゃんが不敵に笑いながらタイチャンに宣言をした。


うーん。


プーちゃんの不敵な笑みってなんだか怖いんだよねぇ。


普段はポヘーッとしているけど、こういう表情をしていると怖く感じてしまう。


実際、プーちゃんはここにいる誰よりも強いんだろうけど。


「なっ!あ、遊んでないで全力でその者たちを排除しなさいっ!!」


タイチャンがプーちゃんの宣言を受けて、配下の魔族たちに命令をする。


タイチャンの命令を受けて魔族たちは一撃必殺技を繰り出そうと身構えるが、プーちゃんの前では全くもって意味がない。


全てプーちゃんが作ったと思われるバリアに吸収されてしまっている。


って、・・・吸収?


弾くのではなく吸収って、その多大な魔族たちの攻撃魔力はどこに行ったのだろうか?


『ふむ。なかなかの魔力なのだ。だが、トマトの方が美味しいのだ・・・。トマトのことを思い出したら無性にトマトが食べたくなってきた。マユ、トマトが食べたいのだ。』


「プーちゃん・・・。」


この場面でトマトが食べたいとか普通言うかね。と、思わず呆れてしまう。


というか、


「プーちゃん、攻撃してくる魔族たちの魔力を食べてたの?」


『何を言っておるのだ?当たり前であろう。魔力が勿体ないのだ。』


プーちゃんはさも当然のようにそう言ってくる。


「・・・初耳だよ。」


私はそんなこと全く知らなかったので、そう返した。


まさか、他人の魔力を食べることができるだなんて・・・。


『まあ、いい。それより、マユ。トマトが食べたいのだ。』


「はいはい。」


今から家まで帰ってトマトを採ってくるわけにもいかない。


まあ、こういうこともあるかと思って鞄の中にはトマトが詰め込まれているんだけどね。


私は鞄の中からトマトを取り出して、プーちゃんに渡した。


「・・・ごくりっ。」


すると、誰かが唾を飲みこむ音がした。


どこからだろうかと辺りを見回すと、口の端から涎を垂らしてトマトを凝視しているタイチャンの姿が目に入った。


「タイチャン・・・トマトいる?魔王様に会わせてくれるのなら、トマトあげるよ?」


私は鞄から取り出したトマトをタイチャンに見えるように上に掲げた。


「なっ!?そ、そのような卑怯な手を取るのですかっ!!ま、魔王様には会わせられませんっ!!た、例えそのような美味しそうなトマトを見せられたとしても私の意志は固いのです。魔王様の意思は絶対ですっ!」


タイチャンは口元から零れ落ちていきそうな涎をグイッと手で拭うとそう言った。


だが、その目はトマトに釘付けである。


「いらないなら、プーちゃんが食べちゃうけど・・・。」


私はそう言ってトマトをプーちゃんに手渡した。


『おお!もう一個食べて良いのだな。今日のマユは気前がいいのだ。』


プーちゃんは私の手からトマトをひょいっと受け取ると、そのままパクッと口の中に放り込んだ。


「ああっ!!!私のトマトがっ!!!」


タイチャンは身を乗り出して、プーちゃんの口に吸い込まれていくトマトを凝視していた。


ってさぁ、タイチャンのトマトではないんだけど。


まだ、タイチャンにあげたわけじゃないし。


私はもう一つトマトを鞄から取り出した。


タイチャンの視線が新しく取り出したトマトに釘付けになる。


「タイチャン。トマト、いる?」


「欲しいっ!私にトマトを寄こしなさいっ!!」


タイチャンは先ほどよりも身を乗り出して、右手をこちらに伸ばしてくる。


「んー。魔王様に会わせてくれたらね。」


私はにっこりとした余裕の笑みを浮かべてタイチャンからトマトを隠す。


「なっ!なななななっ!!なんて卑怯なっ!!」


「だから、魔王様に会わせてくれればあげるから。これは取引よ。」


「あなたそれでも人間ですかっ!?こんな酷い取引なんてあり得ませんっ!!」


に、人間ですかって・・・。


魔族に言われたくないんだけど・・・。


『マユ、人間だったのか?』


「マユが人間なはずないじゃない。」


プーちゃんと女王様がタイチャンの言葉に続く。


っていうか、二人とも私に失礼だ。


私のどこが人間じゃないと言うのだろうか。


『マユは女神の代理なのじゃ。早くマオマオを出すのじゃ。』


待ちきれなくなったのか、タマちゃんが自分の空間から顔だけ出して、タイチャンに向かって告げる。


「なっ!!そのような小娘が女神様の代理ですとっ!嘘をつくのではありませんっ!!」


うん。


タイチャンってばキレた。


憤慨したようすで私のことを睨んでくる。


手を出さないのはプーちゃんのバリアに阻まれているからかもしれない。


それほどまでに殺気を含んだ視線を私に送ってきている。


私も好きで女神様の代理をしている訳ではないんだけどね。


っていうか、女神様の代理って人間だよね?まだ、人間だよね?


「ふぁったく、ふぁいふぇんふぁなぁにぃふぉさふぁいふぇるふぉふぁ。(まったく、タイチャンは何を騒いでいるのだ。)」


その時、魔王城の奥からなにを言っているのだか全くわからない声が聞こえてきた。


 


 




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