第36話
なんとか、タイチャンを説得してお婆ちゃんの入れ歯を洗わせました。
もちろんタイチャンに。
ライチャンは触りたくないって言ってたし。
まあ、触りたくないって言ったライチャンはタイチャンにげんこつを貰ってたけど。
タイチャンが綺麗に洗った入れ歯をお婆ちゃんに渡すとお婆ちゃんはにっこりと嬉しそうに笑って入れ歯を装着した。
『すごーい!歯が取れるのー!』
『歯が取り外し自由なのー!』
『すごいのー!』
お婆ちゃんが無時に入れ歯を装着すると一連の流れを見ていたマーニャたちが口々に騒ぎ出した。
そうだよね。
普通、入れ歯じゃないと歯の着脱なんてできないもんね。
びっくりしたよね。
『マユー!マユも歯取れるのー?』
『マユも取ってみてー?』
『歯を取ってー。』
「ちょっ・・・!!あれは入れ歯だから取れたのであって、私はまだ入れ歯じゃないから取れないの。」
マーニャたちは入れ歯に感動していたかと思ったが、どうして矛先が私に向くのだろうか。
私はまだ入れ歯じゃないから歯は取れないというのに。
というか、入れ歯にする予定は今のところ全くないけど。
『まだってことはいつかするのー?』
『いつするのー?』
『今でしょ!』
「しないっ!しないからっ!!」
マーニャたちは純粋だから入れ歯がどうして必要なのかわからないようだ。
私、今から故意的に入れ歯にはしたくないよ。絶対。
だって、まだ自分の歯が健在だもん。
「ひっひっひっ。可愛い子たちじゃのぉ。」
「・・・頭が痛いの間違いでは?」
「可愛いだろ。」
お婆ちゃんはマーニャたちに怒るでもなくニコニコと笑いながら可愛いと言い続けている。
ライチャンも同じようにマーニャたちの騒々しさを可愛いと思っているようだ。
しかし、タイチャンだけは違うようだ。
『あーお婆ちゃんなの~。』
『歯取ってー。』
『マユは歯が取れないんだってー。不思議なのー。』
マーニャたちもお婆ちゃん相手に強気だなぁ。
しかし、マーニャ達もお婆ちゃんにすんなり懐いているようだ。
お婆ちゃんの方に歩いて行ってお婆ちゃんの足元でおねだりするように泣いているのだから。
お婆ちゃんもまんざらではないようで、マーニャたちを撫でまわしている。
そんなお婆ちゃんの顔は優しさに満ち溢れていた。
『ねーねー。歯が取れるんだったら、目も取れるのー?』
『取れるのー?』
『目も取ってー。』
「ををいっ!!!!マーニャ、クーニャ、ボーニャ。目は取れないからっ!!取れないからっ!!」
マーニャたちお婆ちゃんに向かって何を言っているのだろうか。
普通目は取れないから!!
って、あああ!!!義眼だったら取れるかもしんないけど。
それはおねだりしちゃいけないやつだからっ!
「目をえぐりだせとっ!!?なんと非道な!!成敗してくれるっ!!」
あー。
タイチャンがマーニャたちの言葉に怒ってしまったようである。
なんだか、右手に刃物を持っているような気がするんだけど、私の気のせいだろうか。
っていうか、刃物って言うより剣だよね?
万事休す・・・?
「はっはっはっ。ほれ。」
お婆ちゃんが豪快に笑うと、両目に手を当てた。
そうして、両手をマーニャたちに見せる。
『目だーーーっ!!』
『きゃーーーーっ!!』
『目玉のお婆ちゃんなのーーーっ!』
「魔王様っ!そんなに簡単におねだりを聞いてはなりませんっ!!」
って、マジかい。
まさかのお婆ちゃん両目がポロリと取れた。
お婆ちゃん、義眼だったんだ。
お婆ちゃんの両手のひらで転がる義眼を見て唖然とした。
だって、お婆ちゃんの手のひらに乗っている義眼がぎょろぎょろと意識を持ったように動いているのだ。
普通の義眼ではない。
「「おいっ!まおーっ!!」」
し、しかもしゃべったーーーーーっ!!
この義眼しゃべるし!!
『目玉がしゃべったの!!』
『しゃべるのっ!!』
『すごいのっ!!』
マーニャたちは義眼がしゃべったことに驚いてはいるが、どちらかというと恐怖ではなく興奮しているようだ。
すごい!すごい!とはしゃいでいる。
じっと義眼を見ていると、義眼からピョコンッと白く細い手が生えた。
手が生えたかと思うと、今度は白く細い足も生えてきた。
しかも細く白い足は真っ赤なハイヒールを履いている。
うぅ・・・。
普通の義眼じゃない。
絶対違う。
手足の生える義眼なんて知らないし。
それに、そんな義眼を普通目に入れるなんてことしないし。
「はっはっはっ。すごいじゃろ。・・・ごほっ。」
マーニャたちがはしゃいでいる姿を見て、まんざらでもないのかお婆ちゃんは嬉しそうに笑ってる。
そうして、またお婆ちゃんの口から入れ歯が零れ落ちた。
『きゃーーーーっ!!』
『歯が飛び出たのーーーっ!!』
『面白いのーーーっ!!』
そのおかげで更にマーニャたちが騒ぎだす。
もう楽しくて楽しくて仕方が無いようだ。
どうして、義眼から手足が生えていることには突っ込まないのだろうか。
って、マーニャたちに言っても仕方がないよね。
「「まおーっ!なんだ、こいつらは!!」」
義眼のお姉さんは・・・って、お姉さんでいいよね。だって、ハイヒール履いてるもんね。
義眼のお姉さんはマーニャたちの熱に中てられたのか、右手で目を覆いながらふらふらとお婆ちゃんの手の中で踊っている。
「はっはっはっ。ふみょふにゃーのふにゅふにゅにゅ・・・。」
お婆ちゃんが義眼のお姉さんに向かって何か言っているみたいだが、入れ歯が取れてしまっているため何を言っているのか聞き取ることができない。
義眼のお姉さんも同じようで首を・・・もとい義眼を器用に傾げている。
「「まおー・・・。よくわからない。ちゃんとに喋ってよ。」」
マーニャたちの勢いに飲まれて義眼のお姉さんの語尾は消え入りそうなほど小さくなっていった。
「魔王様っ!入れ歯を洗ってきましたよ!!」
と、そこにタイチャンがお婆ちゃんの入れ歯を持って現れた。
ナイスっ!タイチャン!!
☆
「ほごももも・・・。うむ。猫という生き物は実に可愛いであろう。ミギーにヒダリーよ。」
「「可愛いけどっ!うっさいの!」」
「はっはっはっ。そこが生きが良くていいのであろう。」
どうやら義眼はミギーとヒダリーというらしい。
右側にいる義眼がミギーで左側にいる義眼がヒダリーだろうか。
っていうか、お婆ちゃん義眼にも名前をつけて可愛がっているんだ。
すごいな、年を取ると自分の目に収まっている義眼が動いたりしゃべったりしていても動じなくなるものなんだ。
と、感心してお婆ちゃんたちを見ていた。
だが、ライチャンはミギーとヒダリーが苦手なのか、タイチャンの後ろに隠れている。
確かに見た目あんまり気持ちのいいものじゃないもんね。
ライチャンの気持ちがわかるような気がする。
私も現実逃避したいもん。
「マーニャ、クーニャ、ボーニャそろそろ行こうか日が暮れちゃうし。」
『えーっ!!もっと遊ぶのー。』
『面白いの!もっと遊ぶのー。』
『マユ、ミギーとヒダリー欲しいの!』
「えっ・・・。ボーニャ、ミギーとヒダリーはお婆ちゃんのだからダメだよ。それにちゃんとにお世話できるの?」
ミギーとヒダリーはお婆ちゃんの義眼なのだから、なければお婆ちゃんが困ることになるだろう。
それにお世話の仕方もわからないし。
「大丈夫じゃ。こやつらは人の生気で生きておるでの。ほおっておけば自分で勝手に生気を奪ってくるじゃろ。特になにもせんでも大丈夫じゃ。」
「「まおーっ!!私たちを売り飛ばす気なのっ!!」」
「へ?生気・・・?」
「魔王様っ!!勝手に人間にあげてはなりませんっ!!人間の手にはあまるものです!!」
「まおーさま。確かそれないと目が見えないんじゃないの?」
ミギーとヒダリーはお婆ちゃんに必死に抗議している。
っていうか、生気って何っ!?
義眼が生気を奪って生きているだなんて知らなかったよ。
そんな物騒なものできれば欲しくはないなー。
それにお婆ちゃんの目が見えなくなっちゃうんでしょ。
貰えないよ。
っていうかいらないし。
だいたい貰ったところでボーニャは何をしたいのだろうか。
「ボーニャ、ミギーとヒダリー貰ったらどうするの?」
『遊ぶのっ!!ちょうどいい大きさなのっ!蹴り飛ばしたり、投げたりしたら楽しそうなのっ!!』
「「ひっ!!」」
「はっはっはっ。豪快じゃのぉ。」
ボーニャは実に嬉しそうに遊んだら楽しそうだとのたまった。
その言葉を受けて、ミギーとヒダリーが悲痛な声を上げる。
しかし、お婆ちゃんは愉快に笑うだけだった。
「ボーニャ、玩具だったら生きていないものを買ってあげるから。生きているものはむやみやたらに遊び道具にしちゃいけません。死んじゃうよ?」
『ふにゅー・・・。面白そうだと思ったのにぃ・・・。』
ボーニャは私の言葉にシューンッと項垂れてしまった。
うぅ。ボーニャが落ち込んでいるのを見るのは辛いけど、生き物に対して無用な殺生は避けたいところだ。
後でボーニャたちにはそれぞれ玩具を買ってあげよう。
それで、満足して欲しいな。
でもさー、なんだかさー。気のせいかもしれないけど、生きている義眼を持っていたりするお婆ちゃんはもしかして普通の人間じゃないのかな?
タイチャンもなんだか「人間には・・・。」とか言っているし、どうもお婆ちゃんもタイチャンたちも人間じゃないっぽいんだけど・・・。
私の気のせいかな・・・?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます