第37話

 


 


「その顔はようやく気付いたようじゃの。さて、マユとやら儂の城に招待してやろう。」


お婆ちゃんは先ほどまでの隙だらけの様子をがらりと変えて、隙を一切見せない堂々とした態度に変わった。


これが、同一人物かと思うほどの変わりようだ。


やっぱり、お婆ちゃんはただの人間ではなかったようだ。


そうすると、入れ歯の件や義眼の件もわざとだったのだろうか。


私の頬を冷や汗が流れ落ちる。


それほどまでにお婆ちゃんの威圧感がすごいのだ。


それは、あの女王様を超えるほどの威圧感を放っている。


ガタガタと身体が震えだす。


私はいったい何と相対しているのだろうか。


ただの人間がこんな威圧感を放てるはずがない。


あの女王様を凌駕するほどの威圧感を放てるはずがないのだ。


いったいこのお婆ちゃんは何者なのだろうか。


『こ、怖いのー。』


『女王様より怖いのー。』


『おばーちゃんーやめてなのー。』


お婆ちゃんの威圧感に負けて、頭にくっつくのでないかというほど、マーニャたちの耳がぺたんと力なく倒れている。


尻尾も恐怖のためか、縮こまってしまっている。


瞳も限界まで見開いてしまっており、マーニャたちの恐怖が伺える。


「大丈夫。大丈夫だからっ・・・。」


なにが大丈夫なのかわからないけれども、必死にそう声をかけてマーニャたちを抱きしめた。


「はっはっはっ。そのように怖がるでないわ。先ほどまで儂に目を取り出せと無邪気に言っていた可愛い子たちはどこにいったのじゃ。」


『だってぇ~。』


『威圧感がぁ~。』


『怖いのぉ~。』


お婆ちゃんはマーニャ達には寛容なのか、少しだけ威圧感が和らいだ。


『マオマオは相変わらずなのじゃ。』


その時、今間まで隠れていたタマちゃんが姿を現した。


って、タマちゃん、もしかしてマオマオっていうのはお婆ちゃんの名前・・・?


なら、ライチャンが言っていた「まおーさま」っていうのはやっぱりお婆ちゃんの名前だったんだね。


よかった。


魔王様かと思ってたよ。


でも、お婆ちゃんが人間じゃないのは確かだけどさ。


「おや。精霊王様、久しぶりだのぉ。精霊王様はいつ見ても幼女じゃの。儂のように年相応の姿になった方がいいのではないのか?」


『幼女サイコーなのじゃ。そう誰かが言っておったのじゃ。ゆえに、妾は幼女の姿を取るのじゃ。』


幼女サイコーだなんて誰が言ったのだろうか。


そうして、どうしてタマちゃんはその言葉を信じているのだろうか。


もしかして、タマちゃんは「幼女サイコー」と言った人が好きだったのか・・・?


いや、それはやめておいた方が・・・。


それはともあれ、タマちゃんが現れたことによってお婆ちゃんの威圧感は一瞬にして雲散した。


うん。


よかった。よかった。


でも、お婆ちゃんってばタマちゃんとも知り合い見たいだし、いったい何者なんだろうか。


『そうじゃマユ。もうすでに気づいているだろうが、このマオマオがマユの探していた魔王でパールバティーの母親じゃ。』


タマちゃんがなんでもないことのようにそう言った。


「えっ・・・?」


なんだか今、タマちゃんが物凄いことをサラッと言ったような気がする。


なんだって・・・?


っていうか、もうどこから突っ込んだらいいかわかんない。


もう、どこから突っ込もうか。


『マユ、何を呆けておるのじゃ。』


「いや、だって。今、魔王って・・・。パールバティーって女王様のこと・・・?え?あれ?」


タマちゃんの呆れたような視線が向けられる。


でも、ちょっと待ってよ。


本当に頭の中がぐちゃぐちゃで、情報が処理できないんだよ。


『なんじゃ。気づいていなかったのかえ?マユはニブチンだのぉ。』


「はっはっはっ。・・・げほぉ・・・。」


「ああっ!魔王様っ!洗ってきますぅ~~~!!!」


『まおう?』


『まおうってなに?ミルクより美味しいの?』


『まおまお~。』


「まおーさま。ミギーとヒダリーがまおーさまの威圧感で壊れてるよっ!」


「はら~はら~。」


「ひれ~ほれ~。」


もう、どこからつっこんだらいいのか。


お婆ちゃん・・・いや、魔王様。どうしてそうカパカパと入れ歯が外れるんですか。


っていうか、マーニャたちさっきはあれほど魔王様のことを怖がっていたのになんでもう懐いてるのっ!?威圧感が消えればそれでいいのっ!?


ライチャンはミギーとヒダリーの介抱をしてて偉い。こんなに幼いのにちゃんとに介抱するなんて。


っていうか、なんでミギーとヒダリーは魔王様の威圧感に中てられてるんだよ。


いざという時に魔王様の目が役に立たなかったらどうするというのだ。


っていうか!ライチャンそのティーカップ何っ!?どこから出したのっ!?


ライチャンは何時の間にか両手に花柄の上品なティーカップを持っていた。


中には茶色液体が八分目まで注がれている。


・・・紅茶、だろうか?


誰が飲むの?その紅茶。


さっきまで、ミギーとヒダリーを開放していたのに。


って、まさかミギーとヒダリーに飲ませるのだろうか。


でも、義眼であるミギーとヒダリーにはそのティーカップは大きすぎないだろうか。


『マユ、呆けておらずに正気に戻るのじゃ!』


「いてっ・・・。」


ガンっと後頭部をタマちゃんに蹴られて慌ててお婆ちゃん、もとい魔王様を見る。


確かに言われてみれば女王様と似ているかもしれない・・・。


・・・って、魔王様しわくちゃのヨボヨボのお婆ちゃんだから、似てるのはその恐ろしい威圧感だけなんだけどね。


見た目からじゃ全然わからない。


ってか、あれ?


魔王様と女王様の年齢差おかしくない?


『さっさと要件を話すのじゃ。また、お主は脱線しておるじゃろう?話が進まぬのじゃ。』


「うっ・・・。」


タマちゃんが鋭いツッコミを入れてくる。


だってさ、こうもいろいろあれば脱線したくもなるよ。


ほら、こうしている間にもライチャンがミギーとヒダリーを・・・って、ティーカップの中にミギーとヒダリーを突き落としたっ!!?


「「ふぃー。生き返るわぁ~。」」


熱々の紅茶を注がれたティーカップに放り込まれたミギーとヒダリーは気持ちよさそうにティーカップの中でくつろいでいる。


なんだ。心配して損しちゃった。


どうやらライチャンは、ミギーとヒダリーを落ち着かせるために、ティーカップの中に放り込んだようだ。


あれ?


そう言えば、ライチャンってミギーとヒダリーのこと苦手なんじゃなかったっけ?


ミギーとヒダリーが姿を現したときに、ライチャンはタイチャンの後ろに隠れていたのに。


これはいったいどういうことだろうか。


「いてっ・・・。」


『これ!マユ!また現実逃避をしたであろう?早く話を進めるのじゃ。』


ついついライチャンたちのことが目に入ってしまい、気になって見ていたらタマちゃんに小突かれた。


うぅ・・・。


本当にこのお婆ちゃん・・・もとい魔王様と話進めなきゃいけないの?


魔王様、威圧感がすごいんだよね。


「はっはっはっ。そう緊張しなくてもよいぞ。パールバティーから何を言われたのじゃ。」


魔王様はそう言って豪快に笑った。


こういう言葉を聞く限りは友好的なんだけどね。


だけどね。威圧感が半端ないんだよ。


「はっ・・・。魔王様におかれましてはご機嫌麗しゅう・・・。」


『マユ、変な言葉ー?』


『どうしたのー?』


マーニャたちにツッコまれた。


いや、だってさ。やっぱり緊張してしまうのでありまして。


『はぁ・・・。そんなに緊張することはないのじゃ。マユは女神の代理なのじゃからな。この世界で女神より格が高い者などおらぬのじゃ。ゆえに、女神の代理のマユがこの中で一番格が高いのじゃ。』


「そ、そうは言われましても・・・。」


タマちゃんがそう言ってくるが、やっぱり魔王様の威圧感は半端ないのだ。


そのため、タマちゃん相手にも思わず敬語になってしまう。


『ええいっ!根性がないのじゃっ!!』


タマちゃんが怒ってる・・・。


声を張り上げるタマちゃんにビクッとなってしまう。


うぅ。タマちゃんも怖い。


「はっはっはっ。精霊王よ。そのようなことを言ったら余計に委縮してしまうじゃろ。大丈夫じゃ。マユ。儂は何を言われたとしても、マユに対して怒ったりしないからな。」


怒るタマちゃんに、笑う魔王様。


魔王様って懐が広いんだなぁと思った。威圧感は強いけど。


「あ、あの・・・。では、申し上げます。・・・レコンティーニ王国の女王であるパールバティー様から魔王様への言付けを預かっております。」


「ほぉ・・・。」


意を決して魔王様に女王様からの伝言を告げてみれば、魔王様は一段と低い声で唸った。


また、威圧感も先ほどまでとは比べ物にならないくらいだ。


どうしよう。


魔王様怒らないって言ったのに。これ、絶対怒ってるでしょ!!


 


 


 



 


 


 


 


 



 


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